働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 しばらくは、ブランシュがお茶を入れる音だけが響く。
 オレールはその手つきを愛おしそうに見つめていた。

「なんですか?」
「いや、贅沢な時間だなと思って。君が俺のためにだけ、お茶を入れてくれるなんて」
「ふふ。オレール様のためならいつでも入れますよ」

 机の上にカップを置き、彼がそれを飲むのを眺める。

「オレール様のせいでは、ないですからね」
「……なにがだ?」
「ダミアン様のことです。彼は、確かに幼い頃は神童だったのでしょう。でも努力を怠ったから、今のようになったのです。反対にあなたは、特に期待されない幼少期を経ても、努力することを辞めませんでした。前領主様がオレール様を次期領主にと指名したのも、それを見抜いたからだと思います。私も、……いくら神託があったとしても、本当に好きだと思えたのは、オレール様だったからです」

 ブランシュの告白を、オレールはただじっと見つめていた。

「だから、つまり、……ダミアン様のこと、落ち込まないでください」

 だんだんしどろもどろになるブランシュに、オレールの胸には愛おしさがあふれてくる。

「後悔は、していないんだ。確かに昔は兄上に対して劣等感ばかりだったけど、君のおかげで、俺は自分の行動に自信が持てるようになった。少なくとも、領民が俺を支持してくれる。そう、信じられるようになったから」
「いらない心配でしたか?」

 ブランシュがそう言えば、オレールは静かに首を振った。そして、頬を赤らめたとてもかわいらしい笑顔を見せる。

「いつだって君が俺を一番に心配してくれることが、うれしい。君を娶れと言ってくれた神託に、俺は今、ものすごく感謝している」
「私も、リシュアン様に感謝しています」

 ふたりの影は、ゆっくりと近づき、やがてひとつになる。

 この日、オレールはブランシュを離すのに、ものすごい意思の力を必要としていた。
 戒めとなったのは自身の言葉。

『この世界のルールで君を最高の花嫁にしたいんだ』

 それは心からの本心で、だからこそオレールはなんとか押し留まることができたのだった。

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