働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「……掃除をしよう」

 気を取り直して、ブランシュは箒を手に取った。
まずは水晶の間全体を掃き、水モップをかける。その後は拭き掃除だ。

「リシュアン様も綺麗にしましょうね」

 水晶の間の掃除が聖女に割り当てられているのは、リシュアンへの敬意からだ。水晶に直に触れるのは、神殿の上層部か聖女の身とされている。
 磨いていると、水晶が虹色に淡く光る。なんとなく水晶が──ひいてはリシュアン神そのものが喜んでくれているような気がして、うれしいのだ。

《おはよう、ブランシュ。掃除ありがとう》

 リシュアンの声が頭に響いた。これまでは掃除のときにはなにも話さなかったのに、昨日約束してくれたからか、すっかり親し気に接してくれる。

「おはようございます。リシュアン様。気持ちいいですか?」
《ああ》
「今日の天気はどうでしょうね」
《王都は雲の流れから外れているから晴れるよ》

 そんな風にブランシュとリシュアンが仲良く世間話をしていると、いつの間にか室内に白猫の姿があった。

《ブランシュ! なんで僕を置いていったんだよ!》

 扉が開いた音はしなかったのに、どうやって入って来たのか。

「こら、猫はここに入っちゃ駄目なのよ?」
《建国の賢者に対してそういうこと言う?》
「そうはいっても、姿は猫でしょ。連れ込んだって思われたら私が怒られちゃうじゃないの」

 尻尾を立てて怒るルネだが、姿が猫だと怖くもなんともない。
 ブランシュもつい調子にのって言い合っていたら、水晶が赤みを帯びて光った。

《はは。ルネが怒られてる》

 リシュアンの笑い声を聞いて、ブランシュはなんだかほっとする。
 神として対峙していたときは、あまりに雲の上の人すぎて考えも及ばなかったが、リシュアンにもちゃんと感情があるのだ。
 優しい魔獣であった彼が、神として生きることは、きっと大変だっただろう。もしかしたら彼は、ブランシュに正体がばれたことに少しほっとしたのかもしれない。

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