働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「ねぇルネ。どうしてリシュアン様は、ルネみたいに体を持つことはできないの?」

 ルネはその問いかけに、しっぽを動かしながら答える。

《動物の体を作るには、すごく細かい魔力操作が必要なんだ。賢者と言われた僕だからできるんだよ。魔獣だったリシュアンは、魔力こそ強いけれど魔法自体を知らないからね》
「そう……。でもリシュアン様も、ルネみたいにいろいろなところに行きたいんじゃないですか?」

 ブランシュも、どこか遠くに行きたいという気持ちはある。聖女として神に仕えることに誇りを持ってはいるが、十八歳の乙女としてはやりたいことはたくさんあった。

《ブランシュも、どこかに行きたいのかい?》

 心を読んだように、リシュアンが問いかける。

「どこか、遠く? 見知らぬ土地を旅してみたいですね。……私がここに来たときはまだ十四歳でした。神殿での四年間じゃ、変わり映えのしない日々で……これから一生これが続くのかと思うと、気が重いです」
《そうか……》

 リシュアンが寂しそうな声を出す。なんだか悪いことを言ってしまった気がして、ブランシュは明るく言った。

「でも、リシュアン様にお仕えしているのは楽しいですよ。お話ができるようになって、前よりもっとリシュアン様が好きになりました」
《本当かい? 威厳が無くても大丈夫?》
「ええ。今の方がリシュアン様の気持ちが伝わって来てうれしいですもの」
《あー、ちょっと。ブランシュ、余計なことを言わないでよ。駄目だよ、リシュアン。君は神としてあがめられているんだから、ブランシュ以外には、今まで通り威厳のある話し方をしないと。君が思っているより、人は立場を重んじるんだからね!》

 ブランシュの甘い考えを叱咤するように、ルネがぴしゃりと言った。

「そうかしら」
《そうだよ。この国は、信仰心で団結しているんだから、リシュアンが魔獣だなんて知られたら、暴動が起きちゃうよ》
「……そうかなぁ」

 不満げなブランシュに、ルネはあきれた様子だ。

「君はお人よしだよね。あんまり人間を信じない方がいいよ」

 しっぽをピンと立てて、ルネはそっぽを向いた。一方、水晶はキラキラと輝いている。これはきっと、リシュアンが喜んでくれたのだと、ブランシュは思うことにした。

「よし、これで清掃は終わりです」

 ブランシュは掃除道具を片付けると、「ルネ、見つかる前に出て」と先に追い出す。

「ではリシュアン様、失礼いたしますね!」

 掃除道具を片付け、ブランシュは水晶に向かって語りかけた。
 彼女が出て行った水晶の間では、大水晶がキラキラと輝き続けていた。
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