働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
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北西のダヤン辺境伯家に、早馬が降り立つ。乗っているのは、大柄な騎士風の男だ。
「これは、オレール様!」
「父上が危篤というのは、本当か?」
出迎えた執事長・シプリアンが「こちらでございます」と領主の寝室へと案内する。
馬を従僕に託し、オレールは足早にその後をついていった。
オレールが、自領であるダヤン領に戻って来たのは、実に六年ぶりだ。
領地には次期領主候補である兄が残っており、次男の自分が領地でやれることはほとんどない。だからこそ、身を立てるべく騎士としての務めにまい進した結果、下っ端騎士だったオレールは、第三騎士団の副団長にまで上り詰めた。
年に何度かは手紙で近況を報告し、返事を受け取っては、故郷は変わりがないのだと安堵していたものだが、実際はそうでもなかったらしい。
つい二週間前に届いた手紙はシプリアンの筆で、父が危篤状態で、実はもう三年ほど床に伏しているのだと書かれていた。しかも、後継者であるはずの兄も出奔して行方不明になっているという。
父は、オレールに心配をかけまいと、ずっと内緒にしていたらしい。
「父上!」
広い寝室にある大きなベッドに、そぐわないほど弱々しくなった父が横たわっていた。
(父上はこんなに小さかったか?)
母親が早くに亡くなったため、オレールは家族で仲良く過ごした覚えがあまりない。
父は領主としての仕事に忙しく、後継者である兄ばかりを構っていたからだ。
オレールは横たわる父に話しかける。