働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「父上、しっかりしてください!」
父は薄目をあけ、意外そうな顔をした。
「お前は……オレール? どうしてここに。まだ、ダミアンは見つからないのか」
病床の父が、久しぶりに戻った息子を見て言うことはそれなのかと思いつつ、オレールは父の手を握った。
「兄上はいつから行方不明なのですか?」
「お前には、……教えてなかったな。もう、三年ほど経つ」
(そんなに前からか)
長い間実家に戻らなかったことを、オレールは初めて後悔した。せめて年に一度でも帰っていたら、もっと早く現状を打破する手立てが取れたのに。
「とにかく、しばらくは俺がこの屋敷を切り盛りしますので、父上にもできる限りのご協力を賜りたいと……」
「お前が?」
父は意外そうな顔をした。
オレールは次男で、子供のころから領地運営に関しては蚊帳の外だった。
(こんな状況でもそうなんだな)
オレールは暗い気持ちになりながら、頷いた。
父の危篤の報を聞いたオレールは、慌てて休暇をもぎ取って、とるものも取らず領地に向かった。昔はもっと町全体が明るい雰囲気に包まれていたはずだったのに、今は全く活気が感じられず、民は暗い表情で暮らしていた。
(それでも、辺境伯家の人間として、こんな状態を放っておけるはずはない)
せっかく得た第三騎士団副団長という立場も、手放すしかないだろうとオレールは覚悟した。
「とにかく、ゆっくりお休みください。父上」
オレールは、父の手を握り元気づけたのち、執事長と共に部屋を出た。