働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「オレール様、よくぞお戻りくださいました」
「シプリアン、父上の容体について詳しく教えてくれないか」
シプリアンも、以前より髪に白いものが増えている。苦労しているのだろうと思うと、今まで領地を顧みなかった自分が情けない思いがする。
「そうですね。よくはありません。旦那様は、ダミアン様がいなくなって以降、気力が削がれてしまったようで……」
「そもそも、兄上はなぜ出て行ったんだ? 父上とともに領地経営に励んでいるものだとばかり思っていたのに」
「それが……、わからないのです。三年前、突然、出奔してしまわれて」
「次期領主だろう? あの状態の父上を放っていくなんて、無責任じゃないか」
オレールは声を荒立てたが、シプリアンは静かに首を振った。
「当時は旦那様もまだお元気でしたのです。ご病気は発覚していましたが、子供たちには言うなと口止めされておりまして、ダミアン様もご存じなかったはずです」
「それにしたって、出て行って三年も戻らないなんて」
オレールは唇を噛み締める。
「旦那様は、オレール様にも病気のことは言うなと。……しかし、あまりに容体がよろしくないため、私が独断でお呼び立てした次第です」
「それに関しては感謝する。父の死に目にも会えないのでは、息子として立つ瀬がないからな。それにしても、あれほど期待されていて、どうして……」
歯がゆい気持ちとは、今のような気持ちを言うのだろう。
跡取りとして大事にされ、優遇されている兄を、オレールはいつも複雑な気持ちで見ていた。
実際ダミアンは優秀で、子供の頃は神童ともてはやされていたものだ。オレールは劣等感で、いつも気持ちが苦しかった。