働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 水晶の間から移動しながら、聖女たちは口々に続ける。

「まさかブランシュが結婚だなんて」
「でも、暮れの土地ってダヤン辺境伯のことでしょ? もう結構な高齢じゃなかった?」
「確か、奥方は早くに亡くなっておられるはずよ」
「そ、そうなんですか?」

 不安が胸をよぎる。
 リシュアンは、ブランシュの望みを叶えるためにこんな神託をだしてくれたのかもしれないが、結婚に置ける年齢の釣り合いや愛そのものを理解しているのかが、わからない。
 確かにブランシュは、神殿を出たいともいつか結婚したいとも言ったが、相手は誰でもいいわけじゃないのだ。

「まあでも、ダヤン辺境伯には連絡を取らないとね」

 そんな話をしていた時、神殿の入り口の方が騒がしくなる。

「神殿長様はおられるだろうか。報告があって来た」

 凛とした声に、ブランシュは耳を引かれた。
 すぐさま、神殿長を呼びに向かった下女が側を通り過ぎていく。ブランシュは気になって、入り口ホールへと向かった。
 そこに立っていたのは、こげ茶色の髪の青年だ。赤褐色の瞳が、まるで宝石のように輝いている。

「……っ」

 男はブランシュを見るとなぜか目を見開いた。

「……どちら様ですか?」

 問いかけると、男は我に返った様子で、直立した。

「し、失礼しました。聖女様ですね? 私は、ダヤン辺境伯の次男、オレール・ダヤンと申します」
「ダヤン?」

 暮れの土地の辺境伯と同じ姓だ。

「父が一週間前、神の身許に旅立ちました。跡目は私、オレールが継ぐこととなり、領主交代のご報告に参りました」

(ではこの人が……!)

 ブランシュは驚きすぎて声が出せなかった。

< 25 / 122 >

この作品をシェア

pagetop