働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~

 神殿長は、オレールを奥の部屋へ連れてくるよう下女に言いつけた。

「私がご案内します。こちらです」

 ブランシュはオレールを促し、奥の部屋へと向かう。

 中には、老齢の神殿長と筆頭聖女が並んでソファに座っていた。

「ダヤン辺境伯様。こちらにおかけください」

 ブランシュに促され、オレールは不安そうに正面に座る神殿長を見つめ、腰掛けた。

「あの……、私は、領主交代の報告に来ただけなのですが……」

 辺境伯家の代替わりは、神殿への報告が義務付けられている。そのために、オレールはわざわざやって来たのだ。

「ええ。それに関しては、もちろん承ります。一枚、書類を書いていただくこととなります。それとは別件で、貴方様に相談があるのです」
「相談?」

 オレールは戸惑い気味に、立っているブランシュを見つめる。
 ブランシュもなんとも言えず、視線を神殿長の方へと向けた。

「先ほど、新たな神託が下ったのです」
「神託が?」

 辺境で育ったオレールにとって、神の存在はそう遠いものではない。なんといっても神の水晶がずっとそばにあったのだから。オレールには神の声を聞き取ることはできないが、光り方は確認できる。なにか変事が起こるときは、輝き方がいつもと違うのだ。

「なにか、問題ごとが?」

 辺境伯家の一員として、神託がどれほど大事なのかはわかっているつもりだ。オレールは前のめりになり、神殿長の言葉を待つ。

「君に、結婚してほしいのだ。──うちの聖女と」
「…………は?」

 オレールの目が点になる。神殿長は咳ばらいをして、視線を動かした。オレールもつられてその方向を見ると、ブランシュが気まずそうな表情をしている。

「この第七聖女、ブランシュ・アルベールと」
「は? け、結婚? な、なに言っているんですか」

 聖女とは神の娘。一生独身で、神のために尽くすのではないのか。あまりに荒唐無稽な話に、驚きしかない。
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