働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~

「聖女様は高貴なお方。それを汚すようなことをなぜ私が……」
「いや、落ち着いてほしい。これは本当に神託で」
「……本当なのです。オレール様」

 ブランシュが言うと、オレールは眉を寄せて彼女を見る。その目つきの鋭さに、ブランシュは内心たじろいでいた。

(い、嫌なのよね、きっと)

 拒絶の視線がチクチク刺さって、ブランシュは胃のあたりが痛くなる。

「聖女は、神の声を聞くことのできる貴重な存在です。実際、国内で七人しかいないのでしょう? その聖女を、俗世に落とすようなことを、神が言うはずがない」

 彼の言うことはもっともだ。しかしリシュアンは、本当は神ではなく、おそらくはブランシュの願いを叶えるためにそんな神託を授けてくれたのだ。

「それに我がダヤン家は……いえ、とにかく、突然結婚なんて無理です。聖女様にだって失礼だ」

 オレールは拒絶をあらわにした。ブランシュもいたたまれなくて話すこともできない。

「しかし、これが神託なのです。守られなければ災厄が起こるかもしれません」

 神殿長はこの一点張りで、他の選択肢を考えてはいないようだ。

「……っ、貴方はどう考えているのですか。結婚ですよ? 一生のことだ」
「わ、私は」

 ブランシュは言いよどむ。確かに、リシュアンに愚痴った時はそんなに本気でもなかった。だけどこれはチャンスだ。このタイミングを逃せば、神殿から出ることはきっとできないだろう。
 それに結婚が伴うことは、確かに悩ましいが……。

(でも、この人なら……?)

 オレールという人物を、ブランシュはほとんどなにも知らない。しかし見た目でいうならば、素敵に見える。背は高く、体は鍛えていると一見でわかるくらいにたくましい。父を思い出させるこげ茶の髪も親しみが持てるし、赤褐色の瞳はめずらしくて綺麗だと思う。

 直観的に言えば、彼のことは気に入っていた。

「……もし、望んでいただけるのなら、神の御意思を全うさせていただけたらと思っています」

 それは本心だったが、オレールの口端が歪むのを見て、ブランシュの胸は痛んだ。

(やっぱり嫌なんだ。そうよね。たまたま結婚していなかったとしても、恋人がいるかもしれないし、昔からの婚約者がいるかもしれない)

《大丈夫だよ。リシュアンはすべての情報を総合してこいつを選んだんだから。少なくとも婚約者はいない》

 脳内にルネの声が響く。ルネが、いつの間にかブランシュの足元にすり寄っていた。
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