働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「うわっ、猫?」
オレールも、神殿長やドロテも驚きを隠せない様子だ。ドアが開いた気配もなかったのだから、当然と言えば当然だ。
「よしよし、どうしたの」
ブランシュが抱き上げると、ルネは「にゃぁ」と甘えたような声を出した。
《いいから、押し切れよブランシュ。結婚したいんだろ?》
実際に言っていることは、全然かわいくはない。
(結婚っていうか、自由を満喫してみたかっただけよ!)
《だったらなんとかして頷かせろ。ここを出たいんだろ?》
脳内で会話できるのは便利だが、ブランシュは返答に困る。
たしかにブランシュは中央神殿から出て、普通の暮らしをしてみたいと思っている。だからといって、彼に迷惑をかけてもいいとは思えない。
「あの、オレール様……」
「わかりました」
ブランシュの困った様子を見て、オレールはため息をつくと立ち上がった。
「ブランシュ・アルベール様。神託に従い、あなたを花嫁としてお迎えしたい。しかし、わが領では父が亡くなったばかりで、一年は喪に服さねばなりません。申し訳ないが、すぐにあなたをお迎えすることはかないません。しばらくは婚約者という形で対応できればと思います」
「はい。大丈夫ですよね、神殿長様」
「まあ仕方がないだろうな。しかし、神託なのだから、結婚は急いだほうがいいだろう。挙式が無理なのはわかりますが、籍だけでも入れではいかがでしょうか」
問いかけられたオレールは黙ってしまった。
ブランシュは真面目そうなこの領主様を困らせているかと思うと、いたたまれない気分だ。
「ごめんなさい、領主様。本当はご迷惑ですよね」
「いいえ。違います。でも……本当に、父が死んだばかりで結婚など考えられないのです。申し訳ない、聖女様」
オレールは、沈んだ声でそう告げたのだった。