働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
《そうか。それ、君の前世なんだ》
「多分ね。でなきゃこんな荒唐無稽な世界を思いつくはずがないじゃない」

 またしても頭の中に響く声に、思わず返答しまったが、ここには誰もいないはずなのだ。ネズミ以外は。

「だ、誰なの!」
《ここだよ。僕。ほら》

 声には方向が感じられない。頭の中に直接響いているかんじだ。

「どこ>」
《戸棚の脇》

 言われてそちらに視線をやると、戸棚の足元の所に、白いネズミがいる。

「ひっ……、ネズミっ」

 再びブランシュは箒を振り上げた。ネズミは慌ててブランシュと距離を取り、二本足で立ったかと思うと、小さな手を上下に揺らす。

《落ち着いてよ。説明するから、箒を振り回すのはやめてくれる?》

 ブランシュは唾を飲み込んで落ち着きを取り戻そうとした。……が、無理だ。ネズミの金色の瞳を見ていると、鳥肌が立ってくる。

「いやっ、やっぱりネズミ怖いっ!」

 ぎゅっと目をつぶって叫ぶと、先ほどと同じ声がまた頭に響いてきた。

《この姿、そんなに怖いの? 仕方ないなぁ。……ん、目を開けていいよ》

 なにがいいのか、問いかけたい気分だったがブランシュはおそるおそる目を開けた。

 すると、そこにネズミはいなくなっていた。代わりのように、猫がいる。白色のふわふわした毛で、瞳は金色だ。長いしっぽが波を描くように動いている。

(この子……! え? 私の目がおかしいの? それとも頭? さっき頭を打ったから?)

 目の前の猫は、前世で咲良の死の原因にもなった猫と、見た目がそっくりだったのだ。違うことと言えば、目の色くらいだ。咲良の知る猫は、もっと茶色っぽい目をしていた。

「ジ、ジンジャー?」

 ブランシュは、前世で勝手につけていた猫の名前を呼ぶ。

《違うよ。僕はルネ。ネズミの姿だと怖いみたいだから、君の記憶にあった猫の姿を借りたんだけど、どう?》

「姿を借りた……? なにを言っているの?」
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