働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 しかも、相手はあの第七聖女だ。
 オレールは辺境伯家生まれで信心深い。当然、王都にいる間には、中央神殿に何度も通った。第七聖女を見るのは、今回がはじめてではない。
 最初に見たときは、まだ幼かった。参拝者たちの噂話によれば、彼女はまだ十四歳で、神殿には来たばかりだという。
 美しい薄紫の髪が顔にかかっていたからか、ひどく青ざめて見えて、参拝者への挨拶に声を震わせていた。
 まだこんなに幼い少女が、聖女として選ばれたのかと、オレールは驚きと感嘆を同時に感じたものだ。
 その日、彼女が読みあげた聖句は、震えか細い声であったにもかかわらず、オレールの耳にずっと残っていた。

 それ以降も神殿に通うたびに、彼女を探した。礼拝室に現れる聖女は都度変わるため、彼女の姿を見ることができるのは、せいぜい月に一度ぐらいだったが、オレールは彼女の成長を見ているのが楽しかった。

(いつしか、声には張りが出て、堂々としたたたずまいになり……立派な聖女になったと、思っていた。彼女は一般参拝者である俺になど、気づいていないと思うが)

 成長を願い、見守って来た聖女を、自分が神の身許から引き離すことになるなんて。

「……はあ」
「ため息ばっかりですねぇ。なにがそんなに気に入らないのですか」

 レジスがあきれたように言う。

「だって、そもそも俺は正式な跡継ぎではないし、領内の状態だって今は最悪だ。喪に服すという理由以外でも、結婚している場合じゃないだろう」
「そうは言っても神の御意思ですからねぇ。なにかしら意味があるのではないのですか」

 たしかにそうなのだろう。神託は、国を救うために授けられるものだ。
 これまでも、大火災になりそうだった山火事を初期の段階で教えてくれたり、孤児の中から、魔力の強い子供を見出したりと、なにかしら国に役立つことを伝えるものだった。

「結婚。……結婚なんて」
「往生際が悪いですねぇ、オレール様」
「うるさい、他人事だと思って」

 じろりとレジスを睨み、オレールは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

「この結婚が、国のなにに好影響をもたらせるか、俺にはわからない。だが、それが国のためにはなったとしても、聖女の人生にとっては最悪だろう」

 彼女の翼を折るのが自分であることが、悔しい。
 オレールは胸のもやもやと戦いながら、そんなことを考えていた。

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