働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 少しだけ気分が軽くなったところで、オレールがため息をつき、重い口を開いた。

「……君に、話しておかなければいけないことがある」
「はい?」
「ダヤン領のことについてだ」

 オレールの表情は神妙というのが正しいだろう。

「実は、俺はダヤン家の次男で、本来は跡継ぎではない」
「まあ、そうなのですか」

 ブランシュは少し驚いた。ここまで話が進んでから、跡継ぎではないと言われても困る。

「本来の跡継ぎだった兄は現在失踪しており、父は病死。それで、俺にお鉢が回って来たというわけだ」
「その前は騎士だったんですよ。今日も先に退職の話をしてきたんです」

 レジスが補足してくれる。

「レジス、その話はいい」
「えー。どうしてですか」

 オレールに止められ、ややしゅんとなりレジスが下がる。

「……騎士様だったのですね。道理でしっかりした体つきだと思いました」
「そうなんですよ! オレール様は、騎士時代、将来有望と言われていたんです!」

 下がったはずのレジスがまた前のめりになる。どうやら、彼は主君であるオレールのことが大好きなようだ。

「レジス、いいから。しばらく下がっていろ」

 オレールは顔を赤らめて、レジスを追い払う。

「いろいろ聞きたかったです」
「そんなことは後からでもできる。それよりも、ここからが本題だ。そういうわけで、私は領主といっても仮という扱いになる。もし、もともとの跡継ぎである兄上が戻ってきたら、その座を明け渡さなければならない立場だ。つまり、神の命じるあなたの結婚相手が、本当に俺で正しいのか、わからないのだ」

 ブランシュは衝撃を受ける。確かに、神託では名前まで指定されたわけではない。〝暮れの土地の辺境伯〟と言われただけだ。

「幸いなことに、俺とあなたはまだ婚約者という立場だ。既成事実がなければ解消することは可能だ。だから、……その。つまり、節度ある距離を保つと誓おう。あなたの未来に、傷がつかないように」

 つまり、オレールはブランシュに手を出さないと宣言しているのだ。
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