働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「……オレール様は、お兄様が戻られたら領主の座を明け渡すおつもりですか?」
「そうなるかな。……少なくとも領民はそれを望むと思う」
ブランシュには不思議な気がした。
後継者として育てられながら、出奔して父が死んでも戻らない人を、領民は領主として認めるのだろうか。
「〝聖女を辺境伯に娶らせる〟という神託は、おそらく君がダヤン領に来ることによってなにかがなされることを予見しているのだろう。ただ、相手が俺か兄かについては、判然としていない。そういう意味では、この結婚を急ぐのは危険だ」
逆に考えれば、神託がある以上、ブランシュを娶った相手が辺境伯だ。失踪したという兄が戻る前に結婚してしまえば、ダヤン領主は彼の元から動かない。
「……オレール様は、領主になりたくないのですか?」
ブランシュの問いかけに、オレールは少し迷った様子を見せた。
「なりたくないとか、それ以前に、考えたことがなかったんだ。俺が生まれたときからずっと、家督は兄が継ぐものだと言われていたし。今も、どこかひとごとのような感覚しかない。……正直、そこに君を……聖女を娶れと言われてますます戸惑っている。与えられているすべてのものが、自分のものではないように感じているんだ」
「そうですか」
おそらく彼は、とても正直な人なのだろう。ブランシュはこうして会話しているだけでも、彼に好感を抱いていた。話し方はぶっきらぼうで、あまり優しそうには見えないけれど、実際は自分の立場に悩みながらも、ブランシュのことを気遣うような優しさを持っている。