働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「……でも、先ほど陛下の前で誓いを立てた以上、私たちは婚約者です。オレール様のお気持ちはわかりましたので、私もそれ以上の触れ合いを求めることはしないとお約束いたします。でも……私も正直に言いますね。今回のお話、私にとっては渡りに船という気持ちでいます」
「渡りに船?」
「ええ。私は十四歳で聖女となりました。神に選ばれたことは誇らしいと思っていますが、もっと年頃の楽しみを味わいたかったというのが本音です。ですから、もう一度外の世界に出て、自由を満喫したいと思っていたんです」
「聖女殿」

 意外そうな表情だ。誰だって、聖女が神に仕えることを嫌がっているなんて思わないだろう。

「外の世界のいろいろなものに触れられること。それだけで、私にとっては価値があります。神殿の外でなにかをしたい、なしたい。そう思っていました。今回の結婚は、神が私の願いを聞いてくださったのだと思っています」

 繰り返し言えば、オレールは少し納得したように微笑んだ。

「……そう言っていただけるのなら救われる。あなたは本当に聖女なのだな」
「本心です。だから、ダヤン領に行けることも楽しみにしています」
「そうだな。外の世界に触れてみて、君が教会に戻りたいと思うこともあるだろう」

いまいちかみ合わない会話だが、ここら辺が落としどころなのだろう。

「あなたの力になれるよう、努力します」

 ブランシュが殊勝にそう言うと、オレールは困ったように微笑む。

「君が俺のプラスになることは合っても、俺が君のプラスになることはないだろう」

 なぜこの人は、こんなことを言うのだろう。
 辺境伯というのは、貴族の中でも主要な立ち位置にある。普通の伯爵とは違い、辺境における警備のために多くの権限が与えられているのだ。
 特にこの国では、辺境伯家は神の水晶の保護者だ。より高い権力が与えられている。
 その辺境伯と結婚することが、プラスにならないことなどあるだろうか。

「なぜ……?」
「私は、もともと恋人もいない。堅物で使えない男だ。嫁に来てくれる人がいたかどうかも分からないくらいだし、領主となるからには政略結婚が普通だ。聖女が来るというのなら、辺境伯家にとってはプラスになる。だが、俺には君に与えてやれるものがない。自由と言っても、今の辺境伯家の現状ではなんでも好きにしていいとは言えない状況だ」

 なぜこんなに、オレールは自己評価が低いのか。不思議ではあったが、それ以上は突っ込めなかった。
 言葉を発するたびに、オレールが自分で自分を傷つけているような、そんな気がしたから。

「とりあえず、国王も了承の元、婚約期間は一年間ある。その前に、上書きするような神託が下されればいいが」

 聞けば聞くほど、オレールがこの結婚に後ろ向きなことが分かって、悲しくなる。
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