働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
ブランシュが神殿に戻ると、珍しく六聖女が礼拝室に揃っていた。
 すでに一般参拝の時間は終わっており、いるのは聖女だけだ。

「皆さんお揃いでどうしたんですか?」
「あなたがいなくなった後の、当番の分担を決めていたのよ」
「あーあ、いいなぁ。ブランシュ」

 ブランシュが神殿に戻ると、六番目の聖女キトリーが聖水を片手にぼやいていた。

「キトリー様、聖水はお酒じゃありませんよ」
「だってぇ。やってられないわ。私も結婚したい」

 キトリーだってまだ二十二歳だ。結婚を夢見る気持ちはわかる。

「にゃお」

 ルネがとことことやって来る。ブランシュは彼を膝に乗せ、キトリーの隣に座った。

「キトリー様には、きっともっと重要なお役目があるんですわ」
「そうかしら」
《キトリーも、結婚がしたいのか?》

 ブランシュにだけ、リシュアンの問いかけが聞こえる。

(そのようですよ)

 心の中で応えると、リシュアンはしばし黙っていたが、《キトリーに合う相手は、今はいない》とつれない返事だ。
 そう考えれば、ただやみくもにオレールをブランシュの結婚相手として選んだわけではなさそうだ。ブランシュは少し自信を持った。

「今、神の声が聞こえなかった?」
「いいえ。私には」

 ドロテは筆頭聖女なだけあって、ブランシュとの個人的な話し合いの声も拾ったようだが、内容まで判別できるほど聞こえているわけではなさそうだったので、笑ってごまかすことにする。

「それより、分担の話ですよ。水晶の間の清掃と、礼拝堂当番」
「私はもう年ですからね、清掃当番からは外してちょうだい。今まではブランシュにやっていてもらったの」

 ドロテが腰を押さえながら言う。

「私は、人前に出るのはどうも苦手だから、これ以上祈祷室当番を増やされるのは困るわ。二回に一度はブランシュに当番を変わってもらっていたの」

 第五聖女が言うと、キトリーも「実は私も、時々変わってもらっていたわ」と続ける。
 第三聖女は頬を押さえながらため息をついた。

「なんだかんだとみんなブランシュに仕事を押し付けていたのね? 大変だったでしょう」

 第三聖女に睨まれて、第五聖女やキトリーは小さくなっている。

「……私たち、貴方に甘えていたわね。ごめんなさい」

 聖女たちから口々にそう言われ、皆がわざと自分に押し付けていたわけではないと、思えるようになってきた。

「いいえ。私も無理な時は無理だと言えばよかったんです」
「リシュアン神はすべてお見通しだったのかもしれないわね。だからブランシュに別のお役目を与えたのだわ。きっと」

 第二聖女は慈しみを込めた目でブランシュを見つめる。

「ブランシュ、あなたは私たちにはない役目を与えられました。与えられた場所で、しっかり頑張りなさい?」
「はい。お役目、頑張ってまいりますわ」

 最後の最後で、ブランシュは晴れやかな気持ちになった。
 神殿にいた日々、こき使われてきたと思っていたけれど、彼女たちには彼女たちなりの優しさがあった。

(自分の気持ちを偽らずに伝えるのって、大切なことなんだわ。伝え方は難しいけれど、最初からあきらめていてはダメね)

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