働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
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 タウンハウスに戻ったオレールは頭を抱えていた。

「……聖女を我が家に迎えるなんて……なにを用意すればいいんだ?」

 苦悩する主人を、側近のレジスが励ますように肩を叩く。

「心配することはありませんよ。お嫁さんを迎えることになったとシプリアン様に伝えればよきに計らってくれますって」
「好きに準備するだけの金も、うちにはないじゃないか」
「だから、あるものでなんとかしてくれますって。それに、あの聖女のお嬢さん、ずいぶんいい子そうでしたよ。多少貧乏屋敷を見せられたところで、文句なんて言わないんじゃないですかね」

 レジスは飄々と言うが、こちらにも体面というものがある。迎えるからには、彼女に来てよかったと思ってほしいのに。

「そうか? 幻滅されるんじゃないか?」
「そうであっても、神託による結婚ですよ。あちらだって引くに引けません。オレール様だって、放って置いたら一生独身のタイプなのですから、よかったじゃありませんか」

 レジスが無責任に罰当たりなことを言う。

「はあ……」

 ため息とともに、彼女のことを思い出し、オレールは髪を掻きむしる。
 聖女は、今日も美しかった。控えめにほほ笑み、周囲に気を配る。それでいて言いたいことはしっかりと言う芯の強さを感じさせた。

「彼女は……俺と一緒になって、幸せになんてなれるのか? 領地の立て直しだってこれからだっていうのに」
「さあ。悩んだって仕方ないじゃないですか。聖女の嫁入りは決まったことですよ。シプリアン様に報告することは、ほかにはありませんか?」
「いや、任せる。……悪いな、助かる。ありがとう」
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