働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
それきり、オレールは黙ってしまった。意図がつかめず、ブランシュはオロオロとしたが、すぐに出発となってしまってそれ以上を聞くことはできなかった。
「ブランシュ様、ダヤン領に入りますよ」
馬車の外から、レジスの声がする。ブランシュは小窓から外を眺めた。
ほかの所と変わらず、木々が生い茂っている。
「驚くところなんてあるかしら、ルネ」
《そんな馬車の窓から見られる景色程度で分かるわけないだろ。そもそも、ブランシュはダヤン領のことはどのくらい知っているんだ?》
「……どのくらいって。……いや、なにも知らないわ。そう言えば」
あわただしく結婚が決まってからも、自分の嫁ぐ領のことを調べようなどとは思わなかった。
(思えばだいぶ失礼ね、私)
「ルネが知っていること、教えてくれる?」
反省し、素直に教えを請えば、ルネは得意げに鼻を上にあげた。
《いいよ。まずさ、エグザグラム国って、空から眺めれば六芒星の形をしているんだ》
ルネは尻尾で六芒星を描く。
《ダヤン領はその書き出しの地ともいわれる、北西の一帯を領土としているんだ。エグザグラムを結界で覆ったのは、戦争で多く失われてしまった魔素──これは生命エネルギーみたいなものなんだけど──がこれ以上なくならないよう、国内で循環させるためだ》
「じゃあ、結界の外ってどうなっているの?」
《魔素が足りないから、作物も実らない。岩場が広がっているだけだよ。千年かかっても、田畑を作るほどの回復はできなかったんだ》
ということは、この国の端は世界の端と同じことだ。