働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
次についた大きめの町で休憩が取られたが、市を覗いてみても物資は少なく、新鮮ではない。人々はどこか暗い顔をしていて、オレールが領主だということにも気づいていなさそうだ。
その休憩後、オレールがブランシュの乗る馬車へ乗り込んできた。
「オレール様、馬は?」
「交代した。少し君と話がしたくて」
無口な彼の歩み寄りに、ブランシュはドキリとする。ルネを膝にのせて、「どうぞ」と場所を空けると、彼は迷うことなく向かいに腰掛けた。
しばらく一緒に窓の外の景色を見たのち、「どう思った?」とおもむろに切り出す。
「この辺りには、耕作放棄地がちらほら見られますね」
「そうだ。三年前に伝染病がはやって、領民が一気に減った。そのため、どの町も人手不足のままだ。不作の時ほど、領主の采配で支援してやれねばならなかったのだろうが、ちょうど兄が行方不明になったあたりで、父も心労から体調を崩してしまったらしい。具体的な支援ができなかったと聞いている。それで、この領での生活に見切りをつけ、王都に出ていく者も後を絶えない」
「そうなんですか」
「まあそんなの、領民にしてみればただの言い訳だ。結果的に、ダヤン辺境伯家は領民への支援を怠った。その結果がこれだ」
その一言には、悔しさのようなものがにじんでいた。
(彼は、悔やんでいるのね)
「その時、オレール様はどこに」
「俺は王都で騎士団に所属していた。恥ずかしながら、ダヤン領がこんなことになっているなんて、知らなかったんだ」
それでは、彼のせいというわけではないだろう。しかし、彼はひどく落ち込んでいるようだ。
「領主となったからには、この状況を改善していかなければならない。だが、いったいどこから手を付ければいいのか……」
苦悩する姿からは、領民に寄り添おうとしている姿勢が見られ、好感が持てる。
(どうしよう。私も手助けしてあげたいけど)
しかし、ブランシュも領地運営について詳しいわけではない。
前世で言うところの自治体運営を想像すればいいのかもしれないが、一市民だったのでそれほど詳しくもない。
「ダヤン領の特産はなんなのですか?」
「麦とコメを作っているが、もともと、ダヤン領は山間部にあり、耕作地は少ない」
「収穫量は少ないということですか?」
「そうだ。一時は林業で栄えたときもあったが、伝染病が流行った際に山に入れるものが減り、整備できなかった山は荒れ、今は木の切り出しにも苦労していると聞く」
であれは、再び林業を盛り上げるというわけにもいかないのだろうか。