働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
* * *
領主館のあるマラブルはダヤン領で一番大きな街だ。
そこに入る直前に、オレールは馬車から降り、馬へと乗り変えた。
ブランシュとの話し合いで、オレールはなんだか励まされたような気分になっていた。
(さすがは聖女様だ。気遣いができて優しい)
立派な聖女になった彼女が眩しくてたまらない。
マラブルに入った時はすでに夕刻に近く、市は終わっていたが、行き交う人は多く、家紋入りの馬車を見つけると、足を止めて手を振るものもいた。
「なんだ? 賑やかだな」
領民たちは、オレールが跡を継ぐことに対して、そこまで友好的ではなかった。予想外の歓迎に不思議がっていると、レジスが馬をよせて来た。
「聖女様を迎えるという話が広まっているんだと思います」
「は?」
「俺、シプリアン様に早馬で伝えましたもん。あの方がそれを使わないわけはないと思いますよ。生活に疲れた領民にとって、聖女が領主の嫁になるなんて、最高の娯楽じゃないですか」
改めて周囲を見回すと、領民たちの視線はオレールではなく馬車に向けられている。期待を込めたそのまなざしに、彼女がどう思うかと考えれば、頭が痛くなってくる。
「……やられた」
「でも事実でしょう? 神託により、聖女様が我が領へと嫁いでこられるのです。これを喜ばずしてどうするんですか」
「もういい。黙ってろ」
馬車の中で、彼女がどんな表情をしているか考えるだけで、気が重くなってくる。
自由を求めてこの神託を喜んでいた彼女が、ここでも聖女としての役割をもとめられていると知ったら、どれだけショックを受けるだろう。
「とにかく屋敷に着いたら話をしよう」
「では、私は少し先に行って準備をしてまいります」
レジスが馬を早めた。
周囲の「聖女様―」という呼び声はだんだん大きくなっていて、困惑した表情のブランシュが、手を振っているのが見える。
(……ああもう。俺はどうすればいいんだ)
「領主様。おめでとうございます」
領民に笑顔を向けながら、オレールはひとり、途方に暮れていた。
領主館のあるマラブルはダヤン領で一番大きな街だ。
そこに入る直前に、オレールは馬車から降り、馬へと乗り変えた。
ブランシュとの話し合いで、オレールはなんだか励まされたような気分になっていた。
(さすがは聖女様だ。気遣いができて優しい)
立派な聖女になった彼女が眩しくてたまらない。
マラブルに入った時はすでに夕刻に近く、市は終わっていたが、行き交う人は多く、家紋入りの馬車を見つけると、足を止めて手を振るものもいた。
「なんだ? 賑やかだな」
領民たちは、オレールが跡を継ぐことに対して、そこまで友好的ではなかった。予想外の歓迎に不思議がっていると、レジスが馬をよせて来た。
「聖女様を迎えるという話が広まっているんだと思います」
「は?」
「俺、シプリアン様に早馬で伝えましたもん。あの方がそれを使わないわけはないと思いますよ。生活に疲れた領民にとって、聖女が領主の嫁になるなんて、最高の娯楽じゃないですか」
改めて周囲を見回すと、領民たちの視線はオレールではなく馬車に向けられている。期待を込めたそのまなざしに、彼女がどう思うかと考えれば、頭が痛くなってくる。
「……やられた」
「でも事実でしょう? 神託により、聖女様が我が領へと嫁いでこられるのです。これを喜ばずしてどうするんですか」
「もういい。黙ってろ」
馬車の中で、彼女がどんな表情をしているか考えるだけで、気が重くなってくる。
自由を求めてこの神託を喜んでいた彼女が、ここでも聖女としての役割をもとめられていると知ったら、どれだけショックを受けるだろう。
「とにかく屋敷に着いたら話をしよう」
「では、私は少し先に行って準備をしてまいります」
レジスが馬を早めた。
周囲の「聖女様―」という呼び声はだんだん大きくなっていて、困惑した表情のブランシュが、手を振っているのが見える。
(……ああもう。俺はどうすればいいんだ)
「領主様。おめでとうございます」
領民に笑顔を向けながら、オレールはひとり、途方に暮れていた。