働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 田舎の町だった。過疎化が進んでいたけれど、良質な土壌があり、新鮮な作物が手に入りやすかった。山ではイノシシやクマが出没することが問題になっていて、だからこそ、ジビエ料理店が作られたのだ。
 前世の記憶がよみがえるとともに、ルネが尻尾をピンと立ててくる。

《面白そうな話だな。もっと聞かせてよ》
(勝手に聞いているんじゃないの)

 頭の中を覗かれているのはどうにも落ち着かない。

「こちらに、ブランシュ殿」

 オレールから呼びかけられて、ブランシュは我に返る。
 気づけば、屋敷の使用人がずらりと並んでブランシュを迎えていた。

「こちらが、神託により我がダヤン家に迎えることとなったブランシュ・アルベール殿だ。しかし我が家はまだ喪中のため、一年間は婚約者という形で滞在してもらうこととなった。皆、そのつもりでよろしく頼む」
「あ……ブランシュです。よろしくお願いいたします」
「初めまして奥様、私が執事長のシプリアンでございます。こっちがメイド長のデジレです。用があればなんでもお申しつけください。なにぶん急な話でございましたので、準備が行き届いておらず、お部屋の調度類もそろっておりません。今後時間をかけて、奥様のお好みのものをご用意できればと思っております」
「お、おくさ……」

 言われ慣れない呼び名にドギマギしてしまう。

「まだ結婚まではしていない。呼び方に気をつけろ」
「ですが」
「戸惑っているだろう」

 オレールが言ってくれたおかげで、ふたりは顔を見合わせたのち、「ではブランシュ様と呼ばせていただきます」と言ってくれた。

 室内に通され、改めて部屋の中を見回すと、歴史ある辺境伯家にしては、調度類はシンプルだ。中には売ったのであろうと予測できるような、大型の家具の日焼けの後が残った壁も見える。
 だけど、掃除は行き届いていて、古ぼけた印象はあれども不潔な様子はない。

「大変……綺麗にしていらっしゃって、すごいわ」

 ブランシュの言葉に、シプリアンとデジレは驚いたように目を見開く。

「ブランシュ様?」
「掃除がとても行き届いていて、さすが辺境伯家ですね。中央神殿でも、一番清掃が大事だと言われてきました。特に水晶の間はいつも丁寧に掃除をしていたんです。綺麗だとリシュアン様がお喜びになるんですよ」

 周囲がわっと湧いた。

「で、では、やはりブランシュ様には、リシュアン神の声が聞こえるのですか?」
「はい。辺境伯家にも水晶があると聞きました。見せていただいてもいいですか?」
「もちろん! ……いいですよね、オレール様!」
「あ、ああ」

 オレールを取り残して、使用人たちは聖女に群がり興奮している。

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