働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「こちらです、ブランシュ様」
屋敷から、渡り廊下を伝って小神殿に行けるらしい。
敷地の中央に小神殿があり、屋敷はそれを囲むように建てられているようだ。渡り廊下は北、東、西の三か所にあり、今は西側の渡り廊下から入る。
入ると、廊下が続いていて、行き止まりのドアを開けると礼拝室があった。
ここは四方に扉があり、南側の扉は神殿入り口とつながっているようだ。北側は大きなガラス面となっていて、その奥の部屋にある水晶が見える。
「こちらが聖女様ですか?」
小神殿に勤める神官が、やって来る。
水晶の間に入りたいと言うと、少し不満そうだったが、使用人たちの期待の眼差しもあったせいか、すぐに扉の鍵を取って来て、水晶の間に案内してくれた。
中央神殿と比べれば小さな部屋だが、六角形の部屋の中央に台座があり、水晶が納められているところは同じだ。南側のガラス窓から、礼拝室が見渡せる。
中央神殿にある水晶と違い、ここの水晶は手のひらくらいの大きさだ。
ブランシュはおそるおそる手に触れ、リシュアンへと呼びかける。
「リシュアン様、聞こえますか? ブランシュです」
《ブランシュ。俺の声が聞こえる?》
頭の中に声が響いてくる。同時に、水晶は淡い光を放った。
「おお、水晶が反応している。さすがは聖女様だ」
やはり神の声は、他の人間には聞こえていないようだ。
「リシュアン様、またお話しできてうれしいです。これから、ここのお掃除は私がしますね」
《困ったら、助ける。なんでも言って。ブランシュ》
「はい!」
笑顔で神に語り掛けるブランシュに、その場にいた神官も、オレールも思わず息を飲む。
水晶の光が、やがて淡く消えていく。
「ぶ、ブランシュ殿。もしや、神の声を聞かれたのですか?」
「はい! リシュアン様は私が無事にここに着いたことを喜んでくださいました!」
神官は先ほどまでと打って変わって、顔を赤らめて興奮していた。
「さすが聖女様!」
「これでダヤン領は安泰だ!」
周囲に喜ばれ、ブランシュは逆に焦る。
「え、あの、えっと」
オロオロしていると、オレールが隣に来て肩に手を置いた。
「すまないな。どうも聖女の肩書が先行しているようだ。ダヤン領は数年不作続きだから、少しでも希望が見えれば縋り付きたいのだと思う」
「でもおかげで、オレール様の評価も上がったようですよ」
レジスがひょこりと顔を出して言う。
「聖女様をお迎えすることができるなんて……、領主がオレール様になってよかったのかしら」
ひそひそ声で、そんな言葉が聞こえてくる。オレールは居心地悪そうな顔をしていて、それもまた印象的だ。
「ブランシュ殿は長旅でお疲れだ。今日はこの辺りにして、まずは休ませてくれ」
そう言うと、神官も使用人も納得したように離れていく。
「シプリアン、彼女を部屋に案内してあげてくれ」
「はい」
ふいとそっぽを向く彼の中に、葛藤を見出したものの、その実態がなんであるかは、まだブランシュにはわからない。