働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「ブランシュ様のお部屋は、オレール様の部屋のお隣となります」
シプリアンにそう言われて連れてこられたのは、薄いピンクの壁紙のかわいらしい部屋だった。年季の入った鏡台や、古い絵画が飾られている。
「この屋敷で一番日当たりがいいのです。ベッドシーツは新調させていただきましたが、古い家具ばかりで申し訳ないです」
「ここはもしかして、オレール様のお母様が使っていた部屋ですか?」
「ええ。使用の許可はいただいております。奥方様がお亡くなりになられたのはもう十年も前ですので」
オレールは今二十四歳だったはずだ。十年前ならば十四歳。ブランシュが神殿に入ったのと同じ年の頃だ。
(その年で親と離ればなれになるのは寂しかったでしょうに)
自分の過去を思い出し、ブランシュはつられて寂しくなる。
そして今、父親を亡くし、唯一の身内である兄は行方不明。騎士としての未来を棒に振って、予想してもいなかった領主の座と聖女の身分を持つ嫁が来たというわけだ。
後半だけ見れば一見栄誉なことにも思えるが、本人の望みと違うのであれば、それは押し付けられた不自由だろう。
そして不自由の理由の一端はブランシュにも関わる。ブランシュが自由を望んだから、オレールが嫁を娶る話になってしまったのだ。
(私の自由が誰かの自由を奪うことになるのなら、それはよくないわね。そう思えば、無事に婚約期間を終えたら、お別れするのも悪くないのかもしれないわ)
ブランシュにとっても、どれが正解のルートなのかはまだ未知数だ。
ただ今は、せっかく得た自由を満喫したいと思う。
「では、ごゆっくりお過ごしください」
メイド長が出て行ったあと、ブランシュはベッドにダイビングした。
「ふふ、一度やってみたかったのよね」
《ブランシュの自由って、この程度のことなのか?》
あきれたようにルネが言う。
「だって、神殿でこんなことやれないもの。聖女のイメージを保つのって大変なのよ」
《そんなもんかねぇ》
楽しくルネとお話していると、扉をノックする音がした。
「はい。どなた?」
「俺だ。少し話をしても?」
どうやらドアの外にいるのはオレールのようだ。
ブランシュは今の自分の格好を見て、慌てて起き上がる。
ルネには「しっ」と指を立てて黙っているよう念押しし、聖女らしい笑顔を貼り付ける。