働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「どうぞ。オレール様」
「失礼する」
オレールは旅装から着替えていた。丸首のシャツにズボンという軽装は、はじめてみる姿だ。しっかりした鎖骨のラインに、神殿ではあまり見ることのないたくましい男性の姿を見て、ドキリとする。
おずおずと入って来たオレールは、それでもドアの隙間は開けたままにしていた。
「いろいろ取り決めをせねばならないと思ってな。まず、貴方付きの侍女を任命しようと思う。年代や、性格など希望があれば、言ってほしい」
「侍女ですか? でも私、自分のことはひとりでできます」
「いや、こういった時に取り次ぎを頼める相手も必要だし、慣れない土地の生活を支える存在は必要だろう。特に希望がなければ、こちらから二人ほど選出させてもらう」
「ありがとうございます。そうですね。猫が平気な方がいいです」
ルネを見せると、オレールは少し顔をほころばせた。
「君は猫が好きなんだな」
「ええ。ずっと飼ってみたかったんです」
「もともと飼っていた猫じゃないのか?」
「迷い猫です。ちょうど神殿を出る話が決まったから、そのまま私が飼おうと思って」
「なるほど。運命だったんだな」
オレールはルネの鼻をツンとつついた。その表情は、ブランシュに見せる時より穏やかだ。
(……なんか、いいな、ルネ。ずるいわ)
不思議な感情が湧き上がる。
こっちを向いてほしいような、こちらの視線には気づかないでいてほしいような。