働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 ブランシュは気を取り直して、オレールに向き直る。

「オレール様、私、ここで、やりたいことをやってもいいですか?」
「え?」
「もちろん、金銭的に無理なことは言いません。オレール様の置かれている状況も理解したつもりです。でもせっかく神殿を出たので、これまでやれなかったこと、いっぱいやってみたいんです」

 オレールは眩しいものを見るような目で、ブランシュを見つめた。

「自由を求めているって言っていたな。……ここで聖女呼ばわりされることは嫌ではなかっただろうか。シプリアンにもっとうまく言っておけばよかったのだが」
「構いませんよ。自分から聖女という枠を完全に外すことができないのは、分かっているつもりです。それに、朝はリシュアン様にご挨拶をしたいので、小神殿の掃除を私にさせてください。そうすれば、聖女としての務めも果たしていることになると思います」

 ブランシュは聖女であることが嫌だったわけじゃない。ただ、人からいいようにこき使われる暮らしが嫌だっただけだ。
 ブランシュの反応に、オレールはほっとしたように表情を緩めた。

「……正直、俺は君が来てくれて助かった。俺は力しか能のない粗忽ものだと思われていて、領民の信頼を得られていない。しかし、君がきてくれただけで、俺の評価も上がっているようだ」
「それは……言っていて悲しくならないですか」

 思わずツッコミも入ってしまう。

「悲しいな。だが事実だ」

 どうやら旦那様となる人は、感情と理性をうまく両立できる人のようだ。

「オレール様は、これまで騎士だったとお伺いしました。領主としての評価されるのは、これからではないですか。まだ何もしていないうちから、なにかと比べて落ち込むなんてもったいないです」

 ブランシュもそうだ。これから、今までできなかった楽しいことをするのだ。
 オレールは付き物の落ちたような顔をして、ブランシュを凝視する。

「私も初めてのことに挑戦するんですもの。一緒に頑張っていきましょう?」
「……ああ。そうだな」

 ブランシュの笑顔に、なぜかオレールは泣きそうな顔をしていた。

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