働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
* * *

(……なにが悪かったのかしら。マリーズったら私のこと、なんだか疑いの目で見ているのよね)

 マリーズの視線を感じながら、ブランシュは中央神殿でやっていたように、水晶とその周辺を綺麗に掃除していた。

《ブランシュが慈善事業はもうたくさんだなんて大声で叫ぶからだろ?》

 ルネがさも当然という感じで言う。

「あの時、聞かれていたの?」
《そうだろ。あのお嬢さんは、君が噂通りの聖女なのか、それとも、聖女の皮をかぶった悪女なのかをうかがっているのさ》
「……困ったわねぇ」

 自分のせいとは言え、お付きの侍女に疑われるのはやりにくい。解決策はないものかと悩みつつ、ブランシュは水晶に手を当てて祈る。

(リシュアン様、うまい手はないかしら)
《……いまのところは、ない。でも、ブランシュが、そのままでいれば、大丈夫》

 リシュアンの声は穏やかにブランシュの頭の中に響く。

《ブランシュのこと、知ったら、マリーズも好きになる》
「そうかしら。そうだといいけれど」
《知ること、大切。聞くじゃなく、見て、話して、触れて、心を知る》
「えっ」

 水晶がきらりと光った。そして、リシュアンの声が遠くなる。

《まずブランシュが、知るといい》

 意味深な言葉を残して、気配が消える。

「聞く……じゃなく、触れること……か」

 今ブランシュは、安易にリシュアンから答えをもらおうとしていた。でも、マリーズの気持ちは、他人から聞くものじゃない。

「そうね。自分の目と耳で」

 ブランシュ個人として、マリーズと関係を深めていかなければ、溝は埋まらない。

 掃除を終え、道具をまとめているとベレニスが近づいてくる。

「ブランシュ様、道具は私が片付けます」
「ありがとう、ベレニス」
「ブランシュ様って、本当の聖女様なのですね。水晶がこんな風に光るの、私は初めて見ました」
「お話してくれる時に、光るのよ」

 ベレニスは屈託なく話しかけてくれ、素直な好意を見せてくれる。
 とりあえず、ベレニスには好かれているようだと思えて、ほっとした。

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