働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 肩書に対する過度な期待は、ブランシュには重い。ブランシュは神の声を聞けるだけの十八歳の娘で、それ以上のことはなにもできないのだ。
 それでも、聖女というネームバリューは思った以上に力がある。

「聖女と呼ばれていても、私自身に不可思議な力があるわけではありません。でも、ここは私の嫁ぐ場所です。オレール様と一緒に皆の暮らしがよくなるように尽くすことを誓います」
「はい!」

 参拝者たちの歓喜に、小神殿が包まれる。
 やがて参拝者が納得して出ていくと、ルネが近づいて来た。

《やれやれ、慈善事業はたくさんなんじゃなかったのかい?》
「うん。でもこれは慈善事業じゃないわ。自分の住む土地をよくしたいって思うのは普通に私欲でしょう?」
《そうかねぇ。まあ君は、生まれつき〝聖女〟なんだろうね。だからこそ、リシュアンが気に入ったんだ》

 昔から、余計な荷物を背負い込む癖があった。それこそ、ブランシュがまだ咲良だったことから。

(多分、そういう性分なのよね)

 自分は関係ないとただ見ているのは、おそらく性に合わないのだ。

「ここにきて、やりたいことをするって決めたんだもの。心の赴くままにやってみるわ」
《まあそうだな。自由って要は、やりたいことをやるってことだもんな》
「そう」

 素直に、自分の心に従うのだ。

「うん。迷いも消えたわ」

 ブランシュは笑顔で立ち上がり、美しく整えられた礼拝室を眺めた。
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