働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
屋敷に戻り、ルネと共に水晶の間に行くと、リシュアンが柔らかい光で迎えてくれる。
《ブランシュ、どうだった?》
「リシュアン様。楽しかったですよ。一緒に回れたらいいのに」
《情報は入っている。楽しかったならなによりだ》
「リシュアン様、教えてほしいことがあるんです」
《なんだ?》
淡い光が、きらりと輝く。
「私がいない間、オレール様はなにを?」
《オレールは執務室で、父親のかつての日記を見ていた。領地経営の参考にしようとしていたようだが、ダミアンを褒める文言が多くて落ち込んでいたようだ》
「そうですか」
《あいつ、ちょっと自虐的だよなぁ》
口は悪いが、ルネの言うとおりだ。
オレールの必死さは理解できるが、今はいない人と比べたって、どうにもならない。
「オレール様のお兄様は、どうして出て行ってしまったんでしょうね。聞く限りでは優秀な方なのでしょうに」
リシュアンに聞けば、居場所を教えてもらえるのかもしれない。
だけど、ブランシュはそうしたいとは思えなかった。
「……私、農業以外の主要産業があったらいいのにと思ったんですよね。そうすれば、人を呼び込むこともできるんじゃないかと」
《面白そうなことを考えてるじゃん!》
ルネが楽し気に飛びついてくる。
「ルネ。なにがいいか思いつく?」
《さあ? 僕らに思いつくようなものだったら、新しいこととは言えないんじゃない?》
「リシュアン様どう思います?」
《俺も分からないな。ダヤン領は、農業くらいしかない。でも大きな川がないのがネックだ。それをもっと拡張したいなら、水路の整備をするのがいいと思う》
水路の整備は時間とお金がかかる。そう簡単にできることではない。
「うーん」
《君の頭の中にある前世に、なにかヒントがないの? リシュアンはこの世界のすべてを見通すことができるけど、あくまでこの世界だけだ。違う世界の記憶がある君になら、この世界の誰にも考えつかないこと、思いつくんじゃない?》
「なるほど?」
たしかに、リシュアンが思いつかないということは、この世界の常識で考えていたって答えなんて出ないのだ。
(つまり、オレール様がどれだけ机の前で悩んだって無駄ってことよ)
「私、オレール様とお出かけしたいんです。リシュアン様って、明日以降のお天気も分かるんですか?」
《数日なら》
「だったら……」
快晴なのは、明後日。ブランシュはそれを告げにオレールの部屋に行った。