働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「お、オレール様」
「……悪い。取り乱すところだった。君の言うことには一理ある」
とすっと腰を下ろしたオレールの肩からは、力が抜けていた。
「領主になったのだから、自分で理解して完璧にしなければならないと思っていた。しかし……そうだな。領民の生活が一番大事だ。無駄な時間をかけて、俺のプライドを守ったところでどうしようもない」
力の抜けた表情で、そう言ったオレールを見て、ブランシュも少し力が抜けてきた。
「……怒られるかと思いました」
「君は間違ったことを言っていない。これで怒るのはただの八つ当たりだ」
「オレール様」
安堵と共に涙が目尻に浮かぶ。しかしここで泣いては彼を傷つけてしまう。ブランシュはこっそり涙をぬぐって、笑顔を見せた。
シプリアンはふたりの言い合いが終わったのを見て、口を挟んだ。
「本来、私が気づかねばならないことでした。ブランシュ様がおっしゃる通り、辺境伯家ほどの領地となれば、ちゃんとした管財人が必要です。オレール様、人選は私におまかせいただけませんか?」
「ああ。頼む。財政の無駄を省きたいから、金銭管理に長けた人間を選んでほしい」
「はい」
オレールの表情にようやく笑顔が戻る。ブランシュはほっとして続けた。
「では、その間私とどうか領地視察に行ってください」
「しかし……」
「聖女と仲睦まじい姿を見せるのは、領主としての立場を堅固なものにするためには、良いことだと思いますけれど?」
そう言われるとオレールも反論はできなかった。
「君を利用しているようで、落ち着かないな」
「……利用なさればいいのです。オレール様は人が良すぎなんですわ」
「ブランシュ殿」
「あなたは領民から自分がどう思われているかご存じですか?」
「戦うしか能のない、次男坊……だろう?」
「残念ながらそうみたいです。でもそれは、あなたが領民にその姿しか見せてないからです」
ブランシュはオレールの手を取った。大きな手のひらの表面は固く、武器を持って鍛えた男の人の手という感じがする。
「あなたは、領主として、この土地のことも領民のことも大切に考えています。だけどそれを、領民に伝えようとはしていないように思います」
オレールはハッとしたようだった。
「周りがなんと言おうと、貴方はもうここの領主なのです。であれば、領主としてこの土地をどうしていきたいのか、所信を表明しなければなりません。あなたひとりでは不安なら、私がともに居ます。私は聖女です。隣にいるだけで、耳目を集めることができます。リシュアン様が私をあなたに遣わしたのは、きっと、貴方に民の方を向いてほしいと思ったからですわ」
オレールは少し泣きそうな顔で、ブランシュの手を握り返した。
この強そうな男の人は、きっとずっと心細かったのだ。優秀だと言われた兄と比べられ、これまで触れたことのない領地経営という大きな仕事にどう向き合っていいのか、ただただ悩んでいたのだろう。
「……ありがとう。ブランシュ」
オレールが敬称なしで名を呼んでくれた。ブランシュはそれがうれしくて、自然とほほ笑んでいた。
「……悪い。取り乱すところだった。君の言うことには一理ある」
とすっと腰を下ろしたオレールの肩からは、力が抜けていた。
「領主になったのだから、自分で理解して完璧にしなければならないと思っていた。しかし……そうだな。領民の生活が一番大事だ。無駄な時間をかけて、俺のプライドを守ったところでどうしようもない」
力の抜けた表情で、そう言ったオレールを見て、ブランシュも少し力が抜けてきた。
「……怒られるかと思いました」
「君は間違ったことを言っていない。これで怒るのはただの八つ当たりだ」
「オレール様」
安堵と共に涙が目尻に浮かぶ。しかしここで泣いては彼を傷つけてしまう。ブランシュはこっそり涙をぬぐって、笑顔を見せた。
シプリアンはふたりの言い合いが終わったのを見て、口を挟んだ。
「本来、私が気づかねばならないことでした。ブランシュ様がおっしゃる通り、辺境伯家ほどの領地となれば、ちゃんとした管財人が必要です。オレール様、人選は私におまかせいただけませんか?」
「ああ。頼む。財政の無駄を省きたいから、金銭管理に長けた人間を選んでほしい」
「はい」
オレールの表情にようやく笑顔が戻る。ブランシュはほっとして続けた。
「では、その間私とどうか領地視察に行ってください」
「しかし……」
「聖女と仲睦まじい姿を見せるのは、領主としての立場を堅固なものにするためには、良いことだと思いますけれど?」
そう言われるとオレールも反論はできなかった。
「君を利用しているようで、落ち着かないな」
「……利用なさればいいのです。オレール様は人が良すぎなんですわ」
「ブランシュ殿」
「あなたは領民から自分がどう思われているかご存じですか?」
「戦うしか能のない、次男坊……だろう?」
「残念ながらそうみたいです。でもそれは、あなたが領民にその姿しか見せてないからです」
ブランシュはオレールの手を取った。大きな手のひらの表面は固く、武器を持って鍛えた男の人の手という感じがする。
「あなたは、領主として、この土地のことも領民のことも大切に考えています。だけどそれを、領民に伝えようとはしていないように思います」
オレールはハッとしたようだった。
「周りがなんと言おうと、貴方はもうここの領主なのです。であれば、領主としてこの土地をどうしていきたいのか、所信を表明しなければなりません。あなたひとりでは不安なら、私がともに居ます。私は聖女です。隣にいるだけで、耳目を集めることができます。リシュアン様が私をあなたに遣わしたのは、きっと、貴方に民の方を向いてほしいと思ったからですわ」
オレールは少し泣きそうな顔で、ブランシュの手を握り返した。
この強そうな男の人は、きっとずっと心細かったのだ。優秀だと言われた兄と比べられ、これまで触れたことのない領地経営という大きな仕事にどう向き合っていいのか、ただただ悩んでいたのだろう。
「……ありがとう。ブランシュ」
オレールが敬称なしで名を呼んでくれた。ブランシュはそれがうれしくて、自然とほほ笑んでいた。