働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
農園につくと、わらわらと人が寄ってくる。
屈託なく近づいて来たのは子供たちだ。
「わあ。聖女様だ!」
「あれが、御輿入れなされたっていう聖女様かい?」
色めき出す従業員たちに、ブランシュはすかさず微笑みかける。
「皆さん。ブランシュ・アルベールと申します。領主様の婚約者として、これから一年滞在させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」
「まあまあ、聖女様が私らにもこんなに気さくに」
群がってくる街人に、オレールは顔をこわばらせている。
「ご、ゴホン」
彼の咳払いに、みながびくっと体を震わす。
空気が固まりそうなところで、ブランシュは笑顔を向けた。
「オレール様も領主となってから視察は初めてではないのですか? ほら、見せていただきましょう? これはリンゴですよね?」
ブランシュのとりなしにより、空気はなんとなく和む。
「ええ。この農園では、リンゴとブドウを育てています」
「こちらはなんですか?」
農園の一角には乾物が置かれていた。
「生産したものを、乾燥しております。領内で扱っているのは加工品が多いのです」
「まあ、どうしてですか?」
「多くの生鮮品が王都に出荷されてしまうので、残るのは見目の悪い品が多いのです。それで、見た目が気にならないよう加工して販売しています」
「なるほど、考えられているのね」
話しているうちに、オレールが少し興味を持ったようだ。
「……なぜ、領内で優先して売らないんだ?」
「王都に下ろした方が高く買い取っていただけますから」
男は気まずそうに言う。
ダヤン領は物価が低い。それは、一見いいようにも見えるが、実際は経済の流通から取り残されているということだ。
安値で販売されるダヤン領にはいい作物は回らず、売れないから給料も上げられない。
男はもの言いたげにオレールを見た。
「なんだ? 気になることがあればなんでも教えてほしい」
「……でも」
「なんでも話してください。知らなければ改善もできませんから」
ブランシュが聖女の微笑みで言うと、男は勇気をもらったかのように口を開いた。
「税金も安いのは助かっていますけど、この領自体に魅力がないのは事実です。道路もボロボロですし、観光客も来ない」
「……そうか」
オレールは怒ったりはしなかった。ただ、思うところがあったのか、黙ってしまった。