働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
ブランシュが心の中で意気込むと、ルネは猫のしっぽをくるんとさせて、あっさりと言う。
《その話、ちょっと間違っているんだよね》
「間違っているって、どういうこと?」
ブランシュは聖女だ。十四歳で能力を見出されてからずっと、この神殿で暮らしている。毎日読まされる聖典に書かれている建国の歴史が間違っていると言われては、納得がいかない。
《戦争があったのは本当だけど、最後のほうがちょっと違うんだよね。魔獣は魔力が暴走して、自分でも制御できなくなったんだ。暴走する魔力に、体ももたなくなった。だから僕が魔法で封印したんだ。そうしたらね、魔獣の魂と六つの尾に溜まっていた魔力が水晶化したんだよ。水晶には彼の意思と魔力が詰まっていた。だから僕はそれを神に見立てることにしたんだ。リシュアン神の加護を得て結界を張ったっていうのは、後世の人間に神の存在を信じさせるための捏造だよ》
「……え?」
水晶は、神の言葉を告げる聖遺物だ。中央神殿に大水晶が、六つの辺境伯家に小水晶がひとつずつ納められ、国を守る結界の一部となっていると言われている。
「じゃあ、リシュアン様は」
《それまで、少なくともアスタリスク国には、神なんて存在はなかった。リシュアンって、魔獣の名前なんだよ。可哀想に、あいつはベルデノットの魔術師に洗脳されて、その体さえボロボロになってしまった。水晶になってしまったけれど、意志は残っていたから、国の復興に協力してほしいって頼んだんだ》
「え、ちょっと、ちょっと待って。それって……」
今まで、ブランシュが神とあがめ、毎日祈りを捧げ、神託を授かっては感激していたあの声は、魔獣のものだというのか。