働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
解体されたイノシシ肉が届けられ、ブランシュは厨房に向かう。
ここからは前世での得意分野だ。
まずは肉の状態をチェックし、赤みが強い場合は、血が抜け切れていないので塩水に漬け込む。
すぐに水が赤くなってくるので、水を取り替える。それを繰り返していくと、肉の赤みが白っぽくなっていくのだ。
(焦っちゃ駄目よ。ここが重要)
臭みの原因は血抜きの失敗だ。肉を軽く揉みながら、血を染み出させる。
「そろそろいいかしら」
その後、筋を取り、大鍋で軽くゆでる。これで臭みがとれ、普通の肉のように扱える。
今回使う分を取り分け、残りは塩漬けにして長期保存できるようにした。
「さて、なにを作ろうかしら」
できれば、これを領の目玉としたい。日持ちするような加工ができれば最高だ。
「……チャーシューとか? 丼メニューにもできるものね。コメが作られているって言っていたし」
ブランシュは猪肉のひと固まりをフォークで突き刺し、麻ひもで巻き付けた。
鍋に入れしばらく煮たのち、ショウガ、ネギ、砂糖、しょうゆ、酒を加えて味を調える。あとはじっくり煮込むだけだ。
「しばらく火加減を確認しながら煮ていてもらえますか?」
厨房の料理人にそう指示を出し、野菜を物色する。氷を入れた保冷庫に保管された野菜は、葉物が多い。ブランシュはルッコラなどを使ったサラダを作った。
前世では賄いのメニューだった猪肉丼だが、素朴なダヤン領であれば、これこそが受けるような気もした。
煮込みに時間がかかる為、その間に鍋も作る。ショウガを多めに入れ、塩を使って味付ける。猪肉の定番といえば味噌鍋だが、ここでは味噌が手に入らないので、塩で代用だ。できるだけ近い味付けになるよう、今ある調味料で工夫した。
「どうかしら。味見してくれる?」
「はあ」
料理人たちはみんな怪訝そうな表情だ。しかし、味見をした途端、顔がぱっと晴れ渡る。
「これ、おいしいですね」
「あら、本当だわ。思ったよりも臭みがない」
「これなら、オレール様も気に入ってくださるかしら」
ブランシュが問いかければ、料理人たちは少し困ったような顔をする。
「どうでしょう。私たちも、オレール様のことはよくわからないんです。ずっとダミアン様が領主様になるって思っていたし、オレール様はあの通り無口で、いつも怒っているみたいなので」
たしかに、オレールは常に難しい顔をしている。でも……。
「怒ってはいないと思いますよ」
ブランシュは少し苛々してきた。どうしてここまでオレールは誤解されているのだろう。
ダミアンがどれほどすごかったのか、ブランシュは知らない。だけどもういなくなった人なのだ。いい加減比べるのはやめてほしい。
色眼鏡なしで、今のオレールのことを見てほしいと思うのは間違いなのだろうか。
オレール自身も、もっとみんなと打ち解けるよう努力してほしいと思う。