働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 店内に平和が戻り、ブランシュもほっとする。

「ありがとうございました。オレール様」
「いや、君が馬鹿にされるのは、自分がされるよりも腹が立つ」
「え……」

 深い意味はないのか、さらりと言って、厨房へと戻ってしまったが、言われたブランシュの方はドキドキしてしまう。

(なんか、調子が狂うわ)

 最近、ブランシュはオレールの言動に振り回されっぱなしだ。

「ブランシュ様、新しいお客様です」
「あっ、はいっ。いらっしゃいませ」

 先ほどの男のように、言いがかりをつけてくる人間はいたものの、初日の入りは上々。反応もなかなかに上々だった。
 一日を終えた従業員の顔は晴れやかで、料理人たちは早速明日の仕込みにと張り切った声を出していた。
 それを見ていたオレールは、とても穏やかに笑っていて、ブランシュはその顔に見入ってしまった。
 ふと、彼がこちらを向く。ドキリとしてブランシュは目をそらしてしまった。

「ブランシュ」
「は、はいっ」

 心臓がドキドキする。正面から彼の顔を見るのが、なんだかとても恥ずかしく感じた。

「ありがとう。君のおかげだ。こんなに楽しそうな領民の姿を見られるなんて」
(喜んでくれた)

 それだけで、胸がいっぱいになる。温かいものが、炭酸みたいに胸ではじける。

「いいえ。私は私がやりたいことをしただけです」
「俺ひとりでは、きっとずっと机の上で悩んでいただけだったろう。君がやるべきことを示してくれたから、俺も変わることができたんだ」

 すっとオレールが手を差し出す。意味が分からず戸惑っていると、オレールはブランシュの手を掴み、その甲に口づけを落とした。

「ありがとう。心の底から感謝する。どうか俺と、ダヤン領に、これからも力を貸してほしい」
「も、もちろんですっ」

 頑張ってきてよかったと心の底から思えた。
 そしてもっと、オレールのそんな顔が見たいと思った。
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