働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 ジビエ料理店の客は、徐々に増え、その物珍しさから噂もよく広がった。

「今日も満員ね」

 一週間もすると、領内の人間だけではなく、他の領の人間がジビエ料理を食べるためだけにやって来るようになったのだ。

「やれやれ、ここまで来るのは大変だったよ。道がもっと整備されていればいいのになぁ」

 お客様の愚痴は、領内の環境改善のヒントの宝庫だ。
 ブランシュは接客を中心に手伝いに入り、人の話に耳をそばだてていた。

「ここってあれだろ? 神託で聖女が嫁いだっていう」
「そうらしいな。聖女様にもお目にかかりたいもんだが」

(……ここにいますけどねー)

 店ではあえて聖女は名乗らない。ここでは純粋に、ジビエ料理を楽しんでもらいたいのだ。

 忙しい昼時を終え、ブランシュは店内をじっくり眺めた。
 自分のジビエ専門店を持つのは、咲良の夢だった。図らずも、その夢は今世でかなえられたわけだけど。

(でも、……やっぱり今の私は咲良じゃなくてブランシュなのよね)

 咲良だったなら、これから新しいジビエ料理を考えたり、店を大きくすることに胸を躍らせたことだろう。でもブランシュは、徐々にジビエ料理店は人の手に任せていこうと思っていた。
 瞼の裏に浮かぶのは、オレールの姿だ。
 今のブランシュのしたいことは、彼を喜ばせることだ。不器用な彼が、笑っていられるようサポートしていきたい。そうして隣にいるだけで幸せな気持ちになれる。

(私は、恋をしたのかしら)

 そうかもしれない。不器用で真面目で、優しい彼を、ブランシュはいつしか好きになってしまったのだ。

「今の私の夢は、オレール様を支えることだもの」

 言葉にすればすっきりした。

「ブランシュ、いるか? 少し相談があるんだが」
「はいっ」

 巡回をしていたらしいオレールが入ってくる。

「では、お店はお任せしますね」

 料理長に一言告げ、ブランシュはオレールと共に外に出た。

「オレール様、なんでしょう」
「この間言っていた、道路整備の話なんだが、王都への道を優先にするとして、他に注意することはあるだろうか」
「そうですね。私には思いつきませんが、屋敷に戻ったらリシュアン様に聞いてみましょう」

 聖女としての力があれば、ブランシュはオレールの力になれる。
 そのことがうれしく、自分で誇らしかった。


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