働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「リシュアン神は、本当は魔獣だったってこと? 嘘でしょう?」
《本当だって。でもなにか問題ある? 実際、リシュアンの魔力を使って、国中に守りの結界を張っているんだし、そのおかげでリシュアンは国のすべての動向を把握することができる。彼の神託は、そんなに的外れじゃない。ただ、神の正体が魔獣って言ったら、皆信じなくなるから、神だって伝えただけだよ》
「じゃあ私のことも、ずっと騙してくれればよかったのに」
これはブランシュの本心だ。聖女なのだから、疑心なく神を敬愛しなければならないのに、そんなことを教えられたら、以前と同じ気持ちではいられない。
《いやあ、僕の声が聞こえる人間なんていなかったから、ついうれしくなっちゃってさぁ》
ルネが、右前足で頬をこすりながら言う。見た目は胸がキュンキュンするほどかわいいのに、言っていることはなんだか適当だ。
「なんか、私の中の信心が削られました」
《真実を知って削られるなら、その程度の信心ってことだよ》
「そんな! 私、リシュアン様の声が聞こえること、すごく誇りに思っていたのに」
あまりのショックで涙目になってしまう。
本音を言えば、十四歳で親元から離されたのはとても寂しかった。だけど、神の娘になったのだからとブランシュは自分を慰めて生きてきたのだ。
《リシュアンの声を聞ける人間は、魔力を無意識に使える、感受性の強い人が多い。これも才能だよ。いいじゃないか、誇ったままでいれば》
「そういうことじゃないの!」
半泣きになっていると、頭の中に、かすかな声が聞こえてきた。
《ブラ……ンシュ。俺のこと、……いや?》
ルネの元とは違うか細い声。でもこの声は聴いたことがある。
「……リシュアン様?」
神託のときに聞こえる声だ。通常は水晶が安置されている水晶の間でしか聞くことはないが、その前兆のようなはっきりしない声は、神殿内で聞き取れる聖女もいる。
ブランシュは14歳の時に礼拝堂で聞いたのが初めてで、それ以降は水晶の間でしか聞いたことがなかった。
《そうだよ。聞こえる?》
ブランシュは頷いた。ただふと、疑問も湧き上がる。
リシュアン神はもっと威厳のある話し方をしていたはずだ。