働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 それから二ヵ月。ジビエ料理店は順調に繁盛していた。
 新しい料理の噂が広がり、他の土地から、ジビエ料理の作り方を学びたいと料理人が集まるようになったのだ。

 イノシシによる農作物の被害は、ダヤン領だけの問題ではない。オレールは、ブランシュさえ嫌でなければ、イノシシ肉の処理方法を教えて、各地でも役立ててほしいと言った。
 これには、料理人の中に反対する人間が多くいたが、ブランシュは賛成だった。
 やり方を独占したところで、いつかは広がっていってしまうものだ。それよりはみんなで切磋琢磨して、どんどん新しい発見をしていった方がいい。

 一時的に、ダヤン領でイノシシ狩りが増えたため、この年は田畑が荒れることも少なかった。

「ふふ、今年は収穫物も多そうだって言っていたわ」
《神託さまさまって、店の客は言っていたぞ》

 小神殿で掃除をしながら、ブランシュはルネとリシュアンと話していた。

《いやでも、僕にも害獣を食べるなんて発想はなかったもんなぁ》

 楽しそうに語るのはルネだ。

「私も前世で最初に聞いたときは、大丈夫かなって思いましたもの」

 おいしく料理ができるまでには、様々な先人の苦労があった。その知識を得られただけでも時間の短縮になるというものだ。

「ブランシュ、ご苦労だな」

 声がして、驚いて振り向くと、オレールがいた。

「オレール様」
「毎日、綺麗に清掃していると聞いている。神と話しながらだと」
「え、ええ! リシュアン様もお喜びになっていますよ。ダヤン領に活気が戻るのはいいことだと」

 オレールはあいまいにほほ笑み、ブランシュの手から箒を取った。

「朝食を終えたら、一緒に出掛けないか?」

 オレールの方から誘ってくるなど珍しい。

「ええ。構いませんが」
「では後で」

 そのまま、オレールは言ってしまう。

《なんだデートかぁ?》

 冷やかすようにルネが笑った。
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