働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「ここだよ。ブランシュ」
「え? ……靴屋さん?」
オレールはブランシュの手を引いて店内に入る。店といっても、この世界の靴屋は既製品がない。靴は基本注文して作るものなので、置いてあるのは靴型や加工前の革ばかりだ。
けれど、奥のテーブルに、一組の編み上げブーツが用意されていた。
「ブーツ?」
「イノシシの革を使った靴だ。君のサイズで注文していたものが、ようやく完成したんだ。君に履いてほしいと思って」
やや白っぽい茶色の靴だ。表面はざらっとしていて、皮の風合いがそのまま出ている。
履いてみれば、見た目に反して軽く、足になじむ。
「どうですか?」
「ああ。似合うよ」
足のサイズもぴったりだ。ダヤン領に来てから、二足ほど靴を作ったので、その時の計測サイズで作られているのだろう。
「ブランシュ様、足の引っかかるところはありませんか?」
「ええ。大丈夫よ」
「それはよかった。領主様ときたら、この靴の完成にはすごくこだわって。こっちは耳にタコができるくらい『皮を柔くしろ』ってうるさくてですね」
「なっ、余計なことは言うな」
オレールが顔を真っ赤にして反論する。そんな様子も、なんだかかわいくて。
「……うれしいです。オレール様」
イノシシ革の加工はブランシュにはノウハウがなかった。だからオレールに任せたのだが、こうしてちゃんと形にしてくれたのだ。
「……ブランシュ」
「ありがとうございます。大事に履きます」
あまりにもうれしくて、涙目になってしまう。
オレールは店主になにやら耳打ちすると、彼は奥の部屋に入ってしまった。
「ブランシュ」
オレールはブランシュの手を取る。
両手を重ねたまま見つめられて、ブランシュの胸はドキドキしっぱなしだ。