働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 収穫祭当日。天気は快晴で、朝から小神殿には多くの供物が届けられていた。

「すごい、たくさんね」
「だってリシュアン様のおかげですから! 今年は子供たちも飢えることがなくて。本当に、オレール様とブランシュ様が来てくれて、感謝しているんです」

 領民たちの声が、うれしい。きっとリシュアンもうれしいはずだ。

「皆さんの感謝の気持ち、必ずリシュアン様にお届けしますね」

 ルネはそんなブランシュを横目で見つつ、散歩でもしようかと屋敷の方に向かった。
 途中で、オレールと出会う。

「みゃあ」
「やあ、ルネ。ブランシュは忙しいかな?」

 そう思うなら手伝ってやればいいのだ。ブランシュはオレールのために頑張っているのだから。
 この領主は、少し口下手が過ぎる。ブランシュはそんなところも気に入っているようだが、ルネからすれば少し頼りなく見える。

「みゃーお」
「なんだ? 抱き上げろというのか?」

 オレールはこわごわ手を伸ばす。こんなにでかい図体をしておいて、動物を触るのは怖いらしい。腕の中でルネが伸びをしただけで、体をびくりと震わせている。

「お前は不思議な猫だな。無駄鳴きはしないし、まるで話が分かっているかのような態度をとる」
「みゃ」

 そりゃ分かっているからな、とルネは思う。

「ブランシュもお前に慰められているんだろうな」
《ブランシュが好きなのはアンタじゃん》

 思わず、思念を乗せてしまった。
 オレールは空耳かとばかりに周囲を見る。

「みゃ」

(やばいやばい。ブランシュと話しているときの癖で、うっかりしていた)

 これ以上ぼろを出してはいけないと、ルネはオレールの腕から飛び降り、部屋へと向かった。

「オレール様」
「なんだ? レジスか」
「こんなところでなにやっているんですかぁ。ブランシュ様、神殿の対応で大変そうですよ。オレール様も行きましょう」
「そうだな」
「領主なんですから、前に立ってください!」

 レジスに追い立てられ、オレールも小神殿へと向かうことにした。
 いまだに、領主として扱われることも、目立つことも、得意ではない。
 それでも、ブランシュがこれだけ頑張ってくれているのだ。オレールだって、負けるわけにはいかない。

「……オレール様は、ちゃんと領主としての務めを果たしています。自信を持ってください」
「そうだろうか」
「オレール様の理想の領主はダミアン様みたいなのかもしれないですけど、貴方はあなたでいいんですよ。オレール様みたいな領主が好きな領民もいます」

 あまりにさらっと言われたが、オレールの胸には、ろうそくのような温かい明かりがともった。

「……そうか、ありがとう。レジス」
「それでも自信がないのなら、ブランシュ様に聞いてみればいいんですよ。好きな人が理想とする領主になる為になら頑張れるでしょう?」
「ああ」
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