働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 小神殿は、すでに供物でいっぱいになっていた。

「あっ、オレール様、助けてください」
「大丈夫か?」
「皆さんのお気持ちが多くてですね。保管もしきれないですけど、どうしましょう」
「食物が多いのなら、スープでも作ればどうだ? 午後から拝礼に来た者たちに振る舞えばいいだろう」
「なるほど。マリーズ、ベレニス。厨房と相談してきてくれる?」
「はい」

 ふたりの侍女は、あわただしくかけていく。
 オレールはブランシュの隣に座り、彼女の様子を見る。

「疲れていないか?」
「いいえ。大丈夫です。皆さんがこんなにもリシュアン様に感謝していると思ったらうれしくて」
「……午後からは、祭りの様子を見に行かないか。ずっと神殿に詰めているのでは飽きてしまうだろう」
「いいんですか?」
「ああ。君が来て、変えてくれた街だ。当然だ」
「うれしいです」

 ブランシュは頬を押さえ、目を細めた。そして、小さく讃美歌を歌い出した。

「綺麗な声だな」
「中央神殿で、時々歌っていました。信者の方も声を合わせてくださって、時に大合唱のようになるんです。リシュアン様に思いを届けるのに、歌はいつも力になってくれます」
「そうか」

 まるで初めて聞いたように頷いてみたものの、オレールは知っていた。
 騎士として王都にいたときに、中央神殿で何度も聞いたことがある。

「ふふ、そう言えば」
「どうした?」
「いいえ。昔、一緒に歌ってくださった信者さんのことを思い出していました」
「ほう?」
「歌は苦手のようでしたが、楽しそうな声で。……私も楽しくなったものです」

 ドキリとした。まさか、自分のことではないかと疑ってしまう。

「信者?」
「ええ。中央神殿に集まる信者はここの小神殿の比ではなく、お一人お一人を認識することはできませんでしたが、その声はなんとなく覚えています」

 オレールはなんだか気恥しくなった。

(絶対にブランシュに歌は聞かせられないな)

 午後の約束を取り付け、執務室へと戻る。

「レジス、マリーズに言って、ブランシュが動きやすそうな靴を用意させておいてくれ」
「かしこまりました」

 彼女に笑顔になってもらうために、できることはなんでもしようと思えた。

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