働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「今の姿、リシュアン様の絵姿に似てたわね。ほら、中央神殿の壁画にあった」
「そうだね。リシュアンが神になった時にはもう実体がなかったから、いつしか僕の姿がリシュアンの姿のように絵描かれるようになったんだよ」

 ブランシュはふと、壁画にあった魔獣の姿を思い出す。

「あの壁画に描かれていた魔獣が、リシュアン様の本当に姿なの?」
《そうだよ。ライオンに竜の尾が六本生えたような姿だったな。見せてあげるよ》

 ルネが姿を変える。たてがみが立派なライオンがその場に現れる。背丈はブランシュよりも高く、六つある尾は黒ずんでいて質感も硬質だ。振り回されれば、木をもなぎ倒せてしまいそうだ。

「わあ、すごく大きいのね」
「そうだね。見た目だけで恐れられていたよ」
「ありがとう。もういいわ。声だけからじゃ想像できないぐらい強そうだったのね」

 ルネは猫の姿に戻り、その後も和やかにブランシュとルネは話をしていた。

* * *

 その光景を、ドアの隙間から見ていたマリーズの心中は穏やかではない。

(う、嘘でしょう。化け物が……)

 マリーズは、口を押えたまま、そろりそろりと後ろに下がった。ブランシュに対して、信じ切っていいものかずっと迷いがあったが、ここにきて、その迷いが正しかったことを知る。

(……魔獣を従えていたなんて……!)

 ルネが、猫というには賢すぎるとは思っていた。まさか、本当の姿があんな魔獣だなんて思わなかった。

(どうしよう。誰に相談しよう。ブランシュ様が魔獣を飼っているだなんて。いつか私たち、餌にされてしまうかもしれない……!)

 しかし、ブランシュは現時点でオレールの婚約者だ。ふたりは仲睦まじく、余計なことを言っては、自分の方が処分されてしまう。

「……どうしよう」

 マリーズはとぼとぼと屋敷の外に出た。
 裏庭の方を歩いていると、なにやら声がした。

「……ず、マリーズ!」
「え? 誰?」

 がさがさと茂みが揺れる。怯えたマリーズが逃げようとすると、「待てって」と男の声がした。

「その声……」

 マリーズが目を見開き、茂みに近づく。
 そこには、茶色の髪に灰褐色の瞳を持つ、マリーズの初恋の人がいた。

「やっぱり、ダミアン様?」

 失踪していたダヤン家の長男、ダミアンが帰って来たのだ。

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