働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 オレールの部屋の隣が、ブランシュの寝室となる。
 普段は扉の前で別れてそれぞれの部屋に戻るふたりだが、オレールの方が自室へと誘った。

「汚くて済まないな」
「いいえ」

 オレールの部屋は、ブランシュの部屋と大きさそのものは一緒くらいだが、物が多かった。騎士団時代の剣や鎧が右隅のほうへ立てかけられている。

「兄上のことについて、君と話さないといけない。座ってくれ」

 オレールは小テーブルにブランシュを誘い、向かい合わせに座った。

「まさか、今頃帰って来るとは。生きていてよかったが……君に失礼な言い方をしたな。住まない」
「それは構いませんけれど、とても自分から出て行った人の態度とは思えませんでした。昔からあんな感じの方なのですか?」
「そうだな。実は俺も、騎士団に入ってからは一度も兄上に会ってなかったんだ。もう七年ぶりになるのかな」
「そうなのですか」

 それにしても、感じの悪い態度だった。
 将来を嘱望されていたのに、出て行ったのはダミアンだ。まして、前領主もその心労がたたって病気がちになったと聞いている。なのに、連絡もなく戻って来て、まだ自分が後継者面しているところも気に入らない。

「でももう、ダヤン領の領主はオレール様でしょう? 今さら帰ってこられても、立場を取り換えることなんてできないのでは」
「……兄上は、子供のときから神童と言われていた。頭がよく、機転が利くから、いい領主になるだろうと言われていて」
「責任を投げ出して行方をくらませる人が、良い領主になれるわけがありません!」

 ブランシュはぴしゃりと言う。
 しかしオレール釈然としていない様子だ。

「だが……」
「しっかりしてください、オレール様。民が収穫祭をしたいとまで言えるようになったのは、あなたのおかげなんですよ?」

 ブランシュは必死に訴えかけるも、オレールは迷ったような表情をしている。

(どうしよう……)

 言葉が届かないことに、ブランシュは焦る。
 とそこに、ノックの音が響いた。
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