働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
「お邪魔してもよろしいですか?」
「ええ。もちろん。いいですよね、オレール様」

 許可を得て、入って来たのは、レジスだ。

「失礼します」

 レジスはティーセットを持ってきていた。
 不安げなオレールとブランシュに微笑み、ゆったりとした動作でお茶を入れる。

「どうぞ」

 湯気の上がったカップを見つめていると、ブランシュも少し落ち着いて来た。
 ひと口含んで、その渋みに目の覚めたような気持になる。

「まさかダミアン様が戻って来るとは思いませんでした」

 おもむろに、レジスが口を開いた。

「レジスはどう考えているんだ? お前は、兄上のことをよく知っているはずだ。俺が最初に領を出たときには、補佐も任されていただろう」
「ダミアン様は、確かに子供の頃はすごかったです。神童と言われるだけの実力もありました。けれど、飽きっぽく、努力をすることが苦手なのです。才能があるせいでしょうかね。少し躓くと、すぐ駄目になってしまうというか」

 レジスは、少しだけ寂しそうに目を伏せた。

「……私は、いさめたつもりです。毎回うまくいくわけじゃない。困ったときこそ、民に寄り添うのが大事なんじゃないかと。でもダミアン様には届かなかった。出ていかれる一年前、私は側近の立場から下ろされました。その後は領主様との間でどんな話し合いがあったかわかりませんが、結果としてダミアン様は出ていき、領主様は心労から体調を崩された。領主様は、今更オレール様に頼むこともできず、悩んでおられたのだと思います。だから、いざという時にあなたが来てくださって、安堵されたと思いますよ」

 オレールの手が膝小僧の上できゅっと固く握られた。ブランシュは彼を励ますように手を添える。

「だから私は、オレール様が領主でいるべきだと、そう思っています」
「……私も、そう思います」

 レジスの言葉を後押しするように、ブランシュも言う。

「そ、そうですよ!」

 突然、部屋の扉が開かれた。驚いてそちらをみると、使用人たちがずらりと集まっているではないか。

「みんな」
「領主様はオレール様です! 領民が一番つらい時に、私たちと一緒に頑張ってくれたじゃないですか」

 更には料理人たちも続けた。

「それに、ジビエ料理の店ができて、領内がものすごく活気づいたんですよ? 私たちも新しい食材の可能性に勇気をもらいました」
「それはブランシュのおかげだろう」

 オレールが謙遜するように言ったが、ブランシュは首を振った。
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