働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
最初は、結婚の話にすごく嫌そうだった。その彼が、こうしてブランシュを抱きしめてくれるのだ。
甘いキスは数度重ねられたものの、オレールは、それ以上先には踏み込んでこなかった。
「……続きは、結婚式の後だな」
「はい。あと四か月後ですね」
「早く兄上との話に決着をつけて、ドレスを用意しないとな」
オレールの前向きな声に、ブランシュはほっとした。
彼の肩に持たれ、幸せな気持ちで目をつぶる。
「……もし、オレール様がダヤン領の領主じゃなくなったとしても、私はオレール様がいいです。その時は」
「その時は?」
「神託なんて放って、逃げ出しちゃいましょうか。一緒にジビエ屋さんでもしましょう? 領主でも聖女でもなく、ただのオレールとブランシュで」
「……それも悪くないな」
オレールは小さく笑ったものの、少し釈然としない様子でつぶやいた。
「でも、君は聖女だ。俺はあの時、本当にそう思ったんだ」
「……ん」
「ブランシュ?」
いつの間にか、ブランシュが肩にもたれて眠っている。
「寝入りが早いな」
ほんの一瞬だ。でもよく考えれば、今日は朝から収穫祭の準備と、神殿での供物の対応、そして街歩きとずっと忙しかった。
「……君を、神殿から離したくない。だからこそ、俺は領主の座を諦めない」
オレールはそのままブランシュを抱き起し、ベッドへ横たわらせた。
額にキスをして、そのまま一緒にいたい欲望と戦いつつ、部屋を出る。
朝まで一緒にいたら、結婚前に純潔を奪ってしまいそうだ。
オレールはそのまま小神殿に向かい、水晶の間に入った。
今は神官たちもいない。水晶だけが、かすかにきらめいている。
「リシュアン様、どうかあなたの大事な聖女を……ブランシュを、俺に守らせてください」
水晶はもの言いたげに光っている。ブランシュならば、なにを言っているのかも聞き取れるのだろうが、オレールにはわからない。
「ブランシュを愛しているんです。このダヤン領を守りたいという気持ちと同じくらい、彼女を失いたくない」
オレールの宣言に、水晶の中に光が一瞬またたいた。
なんとなく励まされたような気がして、オレールはようやく気持ちが落ち着いて来た。