働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
* * *

 翌朝、ダミアンは早々に行動を起こしていた。
 自分こそがダヤン領の後継者だと、街の人間からも賛同を得ようとしたのだ。

(屋敷の奴らの態度はなんだ。昔は、『坊ちゃま、坊ちゃま』と言っていたくせに)

 シプリアンも、ダミアンに対しては冷たい態度だった。
『今の旦那様は、オレール様です』と言い、ダミアンが執務室に入ることさえ許さない。

「おや、もしかしてダミアン様ですか?」

 昔の顔なじみである野菜売りが、オレールを見つけた。

「久しぶりだな、ブリュノ。元気だったか」
「元気だったかじゃないですよ。どこに行っていたんですか」
「え? 見聞を広めに行っていたんだよ。領主になるには、見識が足りないなと思ってさ」
「父親の死の知らせさえ知らずにですか?」

 ブリュノの目は冷たい。ダミアンは予想と違う反応に、一瞬言葉を無くした。
 昔のブリュノはダミアンにこびへつらってきていた。ダミアンの差配で屋敷へ野菜を下ろせるようになったという経緯もある。

「お前、なんて口きくんだよ」
「いや、ダミアン様こそ、なにを言っているんですか。今さら。一番いてほしい時にいなかったくせに、なんでそんな偉そうなんです?」
「は?」

 思っていた反応と違う。焦って周りを見るもブリュノの妻もダミアンのことを冷たい眼差しで見ている。

「ダミアン様がいなくなってから、ダヤン領は大変だったんですよ。お父上である前領主様は気落ちして病気になってしまい、おまけに管財人が逃げちまって、領はめちゃめちゃだったんです」
「そうだったのか。……知らなかったんだ。知ってたらすぐに帰って来た」
「なんで連絡先さえ伝えずにいなくなったんですか」

 ブリュノの声がぴしゃりと冷たくなる。
 ダミアンは心臓をぎゅっと掴まれたようなそんな気がした。

「オレール様は、騎士団で出世していたと聞きました。それを投げ捨てて、ダヤン領のために帰ってきてくれたんです。そしてブランシュ様と力を合わせて、ここまで領を復興してくれた。俺たちは心底感謝しているんです。今さら、ダミアン様に領主面されても困りますよ」
「そうですよ。あの方がどんなに苦労したかも知らないで」

 ブリュノの妻にまで言われて、ダミアンはカッとなる。

「お前ら、俺の知らぬ間にオレールを領主に担ぎ上げて、なにをたくらんでいるんだよ! 次期領主は俺だ。そう決まっていたじゃないか」
「あなたがなんと言おうと、我々の領主はオレール様だ。……もう失礼します。俺たちも仕事があるんで」
「おいっ」
< 97 / 122 >

この作品をシェア

pagetop