働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~

 ダミアンは動揺していた。その後も、ふらふらとかつての知り合いを探して話したが、反応はブリュノに近い。
 親しくなかった者は、ダミアンを見るなり眉をひそめて陰口を言っている。

「おいおい、ふざけるなよ。みんな、つい三年前まで、俺が領主になるのを楽しみにしてるって言ってたじゃないか」

 ダミアンはショックを受けたまま、屋敷へと戻った。
 誰でもいいから、褒めてほしかった。自尊心が傷つけられて、耐えられそうにない。そんな気持ちのときにマリーズを見つけ、慌てて駆け寄った。

「マリーズ、お前は俺の方が領主にふさわしいって思っているよな?」

 マリーズは昔と同じ恋情交じりの視線で、ダミアンを見上げた。

「ええ。ダミアン様は昔からすごいお方でした。一度読んだ本の内容はすぐ覚えたし、行動力もありましたし……」
「だったらなぜ、皆、オレールがいいというんだ?」
「それは、ブランシュ様がジビエの事業を成功させたのが大きいかもしれません」

 ジビエの事業はダミアンも噂で聞いていた。

 害獣でしかなかったイノシシを、おいしく調理する方法を編み出し、さらにその皮を使った特産品を作らせるなど、ダヤン領に新しい産業をもたらしたのだ。

「だが、それは聖女の功績だろう?」
「でも聖女がダヤン領に来たのは、リシュアン神の神託ですから」
「では、彼女を妻に娶るのは、俺でもよかったんだよな?」

 マリーズの話によれば、神託は聖女の結婚相手について、『ダヤン領の領主』と言ったのだ。それは、本来はダミアンがなるはずのものだ。

「なるほど、そこから突っ込んでみるか」

 聖女を奪おうという態度に、マリーズは焦ったように付け加える。

「待ってください、ダミアン様。私見てしまったんです」

 マリーズは、きょろきょろとあたりを見回し、ダミアンの耳に口を寄せる。

「ブランシュ様は、得体の知れない化け物を飼っています。あの猫が、大きな魔獣に化けるのを、私、見てしまったんです」
「魔獣?」
「ええ。これは私しか見ていませんが、本当のことなんです。あの方は、本当に聖女なのでしょうか」

 ずっと持っていた疑念をマリーズが告げれば、ダミアンは口端をにやりと上げた。

「よくやった。マリーズ。お前は使える女だな」
「ダミアン様」
「領民に、おもしろいものが見たければ正午に小神殿に来いと伝えて回ってこい」
「はい!」
「オレールの方から突き落とせないなら、聖女の方から突き落とせばいいってわけだ。その猫を化け物の姿になってくれりゃ万々歳だな。よし、化けの革をはがしてやる……!」

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