犬猿の仲の彼の専属メイドになりました。
その矛先は私でも郁人坊っちゃまでもなく、自分自身に。


「遥くんは情けなくないわ」


鼓舞するようにそう告げた。


「・・・今、なんて」
「聞こえなかったの?遥くんは情けなくないって言ったのよ」
「凜、俺の、名前・・・」


遥くんは目を見開いて固まった。無理もない。

だって彼の専属メイドになってから1年半、たった一度も「遥くん」と呼んだこともタメ口で話したこともなかったから。

そんな遥くんに私は謝らなければならない。

私は私が恥ずかしい。


「遥くん、ごめんなさい」
「・・・・・・は?」
「私、貴方のことを・・・」


この続きを言う前に遥くんの手で口を塞がれた。


「おい落ち着け。とりあえず座れ。立ったまま話し始めるつもりか」
「ごめんなさい」
「謝罪はもういいからさっさと話始めろ。お前の話は長いんだからな」


そう言いつつも最後まで聞いてくれる。

こんなところにも遥くんの優しさが溢れ出ていた。
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