犬猿の仲の彼の専属メイドになりました。
「というか離せというわりに抵抗はしないんだな」


(────私が抵抗することを拒んでいるんだから)


「・・・しても力では敵いませんので」


多少苦しい言い訳だが間違ってはいない。


「今間があったぞ。本当は満更でもないんだろ」
「お答えしかねます」
「それ言ってるようなもんだろ」
「言ってませんし言いません」


口にしてしまえば、認めてしまえば、私はメイドとして立っていられなくなる。

それが分かっているからせめてもの抵抗でこの一線だけは越えないようにしているというのに、遥くんは越えさせようとしてくる。

ここは奥の手を使うしかない。


「遥くん」
「!」


久々に名前を呼ぶと、遥くんはピクっと反応して顔を上げた。

私の次の言葉を求めてじーっと見てくる。

こうしていると従順な飼い犬みたいだ。

ついつい甘やかしてしまわないように気を引き締め向き合った。


「そういうことは社長夫人の座を手に入れたら言ってあげるわ」


そう宣言すると、遥くんは目を見開いて固まった。


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