氷の華とチョコレート

◆夕立と傘とチョコレート


「お早うございます、貴宝の五十嵐と申します、営業二課


「おはようございます、ただいま長谷川をお呼び致しますので、こちらの席でお待ち下さい」

「すみません、10時にアポをとっているセブンの松川ですが、商品管理課の行方さんお願いします」

「おはようございます、○U百貨店の磯部です…――」


 午前10時を過ぎた途端、四人もいる受付に、他社の営業が並びいっぱいになる。そして、この時間が一番、私の苦手な時間帯だ。


「おっ、今日、高嶺ちゃんいるよラッキー」

「オレ氷室さんの所並ぼう♪」

「今日も氷の華は美しいね」


 あからさまに並ぶ列と、ヒソヒソと交わされる他社の営業さん達の噂話に、いつも気持ちが重くなる。けれど、そんなそぶりを一切見せず淡々と私は受付業務を続ける。

 こっそりと渡される、名刺に書かれた携帯番号とメルアドをニッコリと受け取り、一切連絡をしない。だから、ついたあだ名が氷の華、決してその辺の男にはなびかないと言う噂? らしい……。



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