氷の華とチョコレート

「美羽、綺麗になったな」

「……」

「会えなくなって、五年も経つのに……」


 うっとりと、あの時のような目で私を見つめる栗栖さんの顔に、全身がゾッと毛羽立った。

 返事をしたくても、……声が、出ない。少しでも離れたくて、私は後ずさり、スマホを持つ手に力を入れる。

 助けて……、暁陽、菜摘。呼びたくても、電話をするタイミングがつかめない。


「ここじゃ何だから、カフェに行って少し話さない?」

「……っ」


 私は、反射的に頭を横に振っていた。


「……美羽?」


 名前を、呼ばないで? あの時の事を思い出してしまう……。震えながら、私は必死に首を横に振り続ける。


「美羽?」


 声のトーンが一気に変わり、栗栖さんはショッピングバックを持つ私の手首を無造作に掴んできた。今まで、一度も触れて来なかった彼の初めての接触がコレだった。

 痛っ!

 その力が、尋常じゃなく強くて……。私を従わせたいように、掴んだまま強く前に引っ張って来る。



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