氷の華とチョコレート

 イ、嫌ッ! 行きたくない……。

 一生懸命踏ん張っていても、男の人の力に敵うワケもなく、ズルズルと引っ張られて……。


「……はな、して? 行きたく、ない!」


 何とか、声を出して抵抗する。けれど、恐怖で上手く息が吸えなくなって、力が全然入らなくなってくる。


「美羽、やっぱ変わったな……、前はもっと従順で、可愛かった」

「……っ」


 彼の腕に更に力が入って、もう無理っ、引きずられる……。

 誰か、助けてっ! 真間さん! 真間さんっ!!

 もう、……ダメ、だ…―――


「嫌がってんだから、止めとけば?」


 真上から声がして、強引に引っ張られる腕の力が弱まり、手首がフッと解放された。


 ―――…えっ?


 泣きそうな気持ちで、顔を上げると、目の前に見たことのある男の人が、栗栖さんの手首を掴んでいた。


「女の子の手首に、こんな痕付けるくらい引っ張るなんて、カッコ悪いことしてないでさ?」


 ニコニコとした笑顔を彼に向けたまま、栗栖さんの手首を掴み上げていた。

 あっ……。



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